第二章 英雄、二度目の人生を歩む

第六話 自分は何者……殺戮者?

暗闇の中に、スノウは一人彷徨っている。


そこには、何もない。

音も、風景も。


(俺は、死んだのか?)

スノウは流れに身を任せる。


(力が入らない、ヒメノは、リサは、ユキナは。)

周りを見渡す。

体を全く動かせない。



そんな中、遠くから声が響く。


(待って……。行かないで……。)

(誰だ?俺に話しかけてる?)

スノウの頭に子供の声が聞こえる。


続けて、少年が全力で誰かを追う姿も見える。

(何だ、何が起きてる?)


バゴーンッ!

爆発音が鳴り響く。

(世界を、救ってくれ。)

静かな声がスノウの頭に響く。


(行かないでよ!先生!)

手を伸ばそうとした途端、スノウに眩い光が差し込む。


「っは!」

スノウは目覚める。木のベッドの上で。

周りには観葉植物、カーペットと地図が貼ってある素朴な部屋。


「生きて、るのか。……ん?」

全身包帯でぐるぐるの体を認識する。

それに気付いた瞬間、痛みを感じる。


「うっ、そうか。あの城で戦って、あの黒ずくめの男に救われたってことか。痛っ!」

スノウは頭を抑える。

(さっきのは夢?なんだ、知ってる気がする。)



ガチャ。

木のドアが静かに開かれる。


「へっ、兄さん?」

ヒメノがドアからゆっくり入ってくる。


「ああ、ヒメノ。無事だったかーー。」

「兄さん!!


ガシッ!

ヒメノがスノウに飛びつく。


彼女の目に涙が浮かんでるのは言うまでもない。


「痛っ!ヒメノ、俺は大丈夫だからーー。」

「バカ!」

スノウを涙目で睨む。


「あ、ああ、悪い。」

「三日、三日ですよ!全く起きる気配もなくて、本当に、死んでしまったのかと……。」

「ごめんな、ヒメノ。」


サラッ、サラッ。

スノウはヒメノの頭を撫でる。


「約束してください、もう一人で無茶しないと。」

「ああ、善処するよ、ヒメノーー」


ネリッ!

ヒメノはスノウのお腹をつねる。


「痛っ、わ、わかった。約束する。」

スノウは微笑みかける。


「その言葉、忘れませんから。」

ヒメノは少し安心したのか、顔に笑顔が浮かぶ。




「ヒメチン、スノウはまだ寝てーー。」

「ヒメノちゃん、村長さんが私たちに用事があるとーー。」

リサとユキナが部屋に入る。


「おお、二人とも。」

「え、本当に、スノウ……?」

「先輩、無事なんですね……?」


ザバッ!

リサとユキナもスノウに寄り、喜びを分かち合う。


「大丈夫だから、心配かけて悪かった。」

「本当だよ!全く起きないから、どうすればいいのかって……。」

「でも、起きてくれて、本当に嬉しいです。」


部屋に明るさが舞い込む。

四人の再会を祝してるかのように。




「そういや、村長がどうとか言ってなかったか?」

「あ、そうなの。ここの村長さんが私たちを呼んでて。」

リサは涙を拭いながら話す。


「分かった。俺も、礼を言いたいから連れてってくれ。」

「いいですけど、先輩本当に歩けます?」

ユキナが手を差し伸べる。


「ああ、多分な。でもせっかくだから手を借りるぜ。」

スノウはユキナの手を取って立ち上がり、部屋を出る。


外に出ると、のどかな雰囲気。

風は心地よく、畑には作物が、家は少ないが活気がある村である。


タッ、タッ、タッ。

四人は村の高いところにある村長の家に向かう。


コンッ、コンッ、コンッ。

「こんにちは、ハンクさん。」

リサが先頭で入る。


「おお、リサくんわざわざすまないねーー。」

村長のハンクは目をまん丸にする。


「君、もう動けるのかい!?」

「ああ、おかげさまで。今日はそのお礼を言いに。」

「こりゃ驚いた。あんなに血まみれだったから、正直どうなるかと。」


ハンクはイスから立ち上がる。

「改めまして私はこの村、フォールクヴァングの村長、ハンクと申します。」


ハンク・ヤン

ぽっちゃり体型で、いかにも優しそうなお父さん。

妻の、ミリア・ヤンとフォールクヴァングを統治している。


★フォールクヴァング

ギムレーで三箇所しかないギルドのうちの一つが設立されている村。人口は多く、冒険者や商売人、いろんな民族が行き交う賑やかな村。


「俺は、スノウ・アクセプトだ。助けてくれて、本当にありがとう。」

「いやいや、君らがいきなり現れた時は驚いたがその身なりを見てすぐ理解できたよ。」

「俺たちの身なり?」

スノウは軍服であることを再認識する。


「君たちは、なのだろ?」

「トッ、プ?」

「やはり、君も分からないのか。」

ハンクは頭を抱える。


「君もってことは……。」

「兄さん、やはり私たちはかなりの記憶を失ってるみたいです。」

「スノウくん、ヘルクリスマスを覚えているかい?」

ハンクがスノウに問いかける。


「ヘルクリスマス?何かのイベントか?」

「いいえ、先輩。もっと大変なことです。ギムレーで起きた大戦争です。」

「大戦争!?」


バサッ!

おもむろにハンクは大きな紙をテーブルに広げる。


「何だこれは?」

「君たちは、この記録に残されている最強の戦士の生き残りではないかと思うんだ。」


最強の戦士と記されたところに、スノウを含めた四人の名前が載っている。


「確かに、俺たちの名前が載ってるな。てことは、俺たちのこの力って。」

「多分スノウの予想通り。ここの20人が使える特殊な力なんだと思うよ。」

四人の中に重い空気が流れる。


「俺たちが戦った時に口にしてた、狼派とか一式とかもこれ関連なのか?」

「多分そうだろう。そして、スノウくん達四人はこの世界の英雄なんだ。」

「英雄?俺たちが?」

「そうだ、何せこのヘルクリスマスを終わらせたのはトップの20人なのだから。」


ハンクは紙を閉じる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。理解が追いつかない。」

「私たちもまだ完全に整理できたわけではないんですが、兄さん一つだけ大事なことがあります。」

ヒメノがスノウの正面に立つ。


その眼差しは、とても真剣なもの。


「なんだ?」

「私たちは、英雄でもあり、でもあるかもしれません。」

「え……」

スノウは声をつまらせる。


世界を救った英雄。トップの最強の戦士、ホープ。

その四人は、スノウ、ヒメノ、リサ、ユキナ。

5万人の頂点に君臨した彼らは、逆に言えばそのほかの人間達を……。


四人はこれから記憶のカケラを手にし始める。

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