第二話 英雄の力はここより目覚める

ザシュ!ザシュ!

辺りには血が飛び散る。


「くそっ!この化け物どこからきたんだ!」

「嫌だ!死にたくないよ!ママ!」

軍人らしき男達が逃げ惑う。


「予想通りだ!バケモノは二体、まだこっちに気付いてない。」

「兄さん、同じ力をまた使えますか?」

ヒメノがスノウの右手を掴む。


「ああ、こうすりゃ多分!白狼フェンリル、俺に力を貸せ!」

スノウの右手にのみ青い光が生まれる。


「やっぱりこの力、スノウは使いこなしてるのね。」

「同じ場所で目覚めたということは、私たちも先輩と同じく力があるのでしょうか?」

リサとユキナは話し合う。


「とりあえず、あいつらぶっ飛ばしてくる!」

スノウはハンマーを持つゴブリンに突っ込む。


シュンッ!

狼派一式ロウハイッシキ! 迅狼ジンロウ!」


ゴスッ!

スノウの右拳が背中を捉える。


「グギャ!」

ゴブリンはその場に倒れ白のクリスタルに変わる。


「貴様!」

もう一体のゴブリンが向かってくる。


「へへっ、お前もこの力でーー」


ズキーンッ!


スノウの頭に激痛が走る。


(なんだ、いきなり。頭が、割れる!)

周りがぼやけて見える。


「兄さん!危ない!」

「はっ!」

ヒメノの声で意識を戻す。



が、


「ふんが!」

ゴスッ!


「げほっ。」

ゴブリンの拳が、両手でカバーをしたスノウごと壁に叩きつける。


「兄さん!」

ヒメノが叫びに呼応するかのように、


ズキンッ!ズキンッ!


「痛っ!」

ヒメノがうずくまる。

(もう寝てる時間はないわ。)


ヒメノにも先ほどのスノウの症状が起きる。


「あ、熱い、苦しい、なに、これーー。」

「ヒメノちゃん!」

ユキナが駆け寄る。


(あなたは、また飛べる。)

「私は、飛べる?」

ヒメノは目の前に倒れてるスノウを見る。


「兄さんを、助ける。」


(そうよ。さあ!私と飛んで!紫鷹グリンカンビの戦士)

「グリン……カンビ……。」


(契約完了コントラクトオン)


ドゴーンッ!

ヒメノから紫の光が登る。


「これって、スノウと同じ!」

「そうですね、ヒメノちゃんにも同じ力がーー」


ブンッ!

リサとユキナの目の前からヒメノが消える。


シューッ!

風を切ってヒメノは一直線。


鷹派一式オウハイッシキ! 三日月ミカヅキ!」


ドゴンッ!

紫の光を纏った、ヒメノの高速サマーソルトがゴブリンの顎に入る。


「ウグッ!」


ポトンッ。

ゴブリンは白いクリスタルになる。


「兄さん!」

「えほっ、えほっ、ヒメノ、今の力。」

「はい、私にも兄さんと同じ力があるみたいです。」

ヒメノはスノウを立ち上がらせる。


「二人とも!大丈夫!?」

リサが慌てて駆け寄る。


「ああ、壁に打ちつけられたがどうやら俺の体は頑丈らしい。」

「先輩が無事なら良かったです。ヒメノちゃんも力が使えましたね。」

ユキナはヒメノの脚を見る。


「そうですね、ただ変な感覚です。足がふわふわするようなーー。」


バァン!

奥の部屋から大きい物音がする。


「まだ気は抜けなさそうだな。行くぞ!」

スノウが走り出す。それに三人も続く。


タッタッタッ。


彼らの走る音以外に、ヒメノの耳には違う音が混じった。


(なに、この奇妙な音?小さい足音の中に、一際大きな音がある。まさかっ!)


「みなさん気をつけて!」

ヒメノは他三人を止める。


「ヒメノ、どうした?」


ピキンッ!

(うん?この先に一体、雰囲気違う奴がいる。)


「そういうことか、ヒメノ。」

「はい、この先何か違います。」

スノウとヒメノが警戒する。


「二人ともどういうこと?」

リサが疑問を投げかけた途端、


「グァッ!!!!!」

大きな雄叫びが響き渡る。

部屋の奥にゴブリンの上位種、オークがいる。

ざっと、5mはあるだろう。


「ここにいた人たちも全滅か、それにこの化け物かなり強いな。」

「兄さん、二人でなんとかしましょう。」

スノウとヒメノが話し合う中、


「ちょっと待って!あたしも戦うよ!」

リサが先頭に立つ。


「ばか、今のリサじゃ危険だ、ユキナと待ってろ。」

スノウとヒメノは部屋の隅に向かう。


パタンッ。

「そんな……悔しいよ……。」

リサが崩れ落ちる。


「リサさん……。」

ユキナが寄り添う。


「なんだお前ら!」

オークがスノウとヒメノに気付き攻撃してくる。


「遅えよ! 狼派一式ロウハイッシキ! 迅狼ジンロウ!」

スノウはオークの拳を避け、横腹に一発入れる。


「グギッ!」

オークは片膝をつく。


「ナイスです、兄さん! 紫鷹グリンカンビ! 私と飛んで!」

空高く飛んだヒメノの脚から紫の光が出る。


鷹派一式オウハイッシキ! 三日月ミカヅキ!」


「うごあ!」

オークは仰向けに倒れる。


「すごいな、二人とも。」

「いつも、私はみなさんに助けられてばかりーー」


ドスン、ドスン。



予想外な出来事。



リサとユキナの背後の通路からゴブリンが迫る。


「嘘でしょ、ユキチンあたしの後ろに!」

「リサさん!なんで私を庇ってーー。」

「年下の女の子守るなんて当たり前でしょ!」


(そうだ、よく言った。)


ズキンッ!ズキンッ!


「痛っ!」

リサが倒れ込む。


「リサさん!」

「何これ、全身が悲鳴をあげてる。これって、スノウたちのーー。」


(これが、おぬしの力だ。)


「うぁー!!」

リサはもがき苦しむ。


(早く求めよ!わしの名を!赤虎グラニの戦士)

「グラ……二……。」


(契約完了コントラクトオン)


リサから赤の光が登る。

そして、リサは勇ましくゴブリンの前に立ちはだかる。


「じゃまだ、死ね!」


ブンッ!

ゴブリンが斧を振り下ろす。


「それは、あたしのセリフ!」


バキンッ!

避けられた斧は、床にめり込む。


ザッ!

リサは走りながら両手を握り、赤い光を纏う。


虎派一式コハイッシキ! 猛虎モウコ!」

リサは前に組んだ両手で、ゴブリンの頭をかち割る。


メキッ!

静かに白いクリスタルになる。


「はぁ、はあ。ユキチン!大丈夫!?」

「リサさん、すごい。」

ユキナが床に座り込む。


「あはは、私は、やっぱり一人なのかな。」

彼女の目には薄らと涙が。


「私には、みんなと戦える力なんてーー。」

(あんたにも出来るわよ!)


ズキンッ!ズキンッ!


「うっ、痛い!苦しい……。」

ヒメノは胸を抑える。


「ユキチン、まさか!?」


(あんたは我慢しすぎ。少しは、わがままになりなさい。)

「わがまま……私も、戦える?」

ユキナはオークと戦うスノウとヒメノを見る。


(当たり前でしょ!さあ、私と踊りなさい!緑鮫ヨルムンガンドの戦士)

「ヨルムン……ガンド……。」


(契約完了コントラクトオン)


ユキナから緑の光が登る。


これで戦闘体制は整った。

反撃の時、それは、今。

の戦士達は動き出す。

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