第36話 1日目 -緩急-

「ハルマン、手首の使い方と力の強弱を意識するんだ。

全てを全力で行う必要はない」


なるほど、そう言うことか。


ボクは、父さんに言われるままに攻撃を当てていく。


振り抜くの速度を落とさず、だが力の込め方を変える。


父さんの剣にぶつかる瞬間に力を籠める。


その時、父さんの剣が吹き飛んだ。


「はは、まさか一日で届くなんてな」


父さんは、笑みを浮かべながら右手首を振っていた。


これが、剣術。


ボクは、いままで力いっぱいに振っていただけだったんだな。


「ハルマン、いまの一撃を意識するんだ。

そして、それを常に自然体でできるようにしろ」


「はい!」


「明日は、身体の動かし方だな。

剣だけじゃない、回避を意識してもらう。

くぅ、ハルマン。お前は、強くなれる。

グランディッシュに着く頃には「勇者の息子」を名乗れるようになるだろう」


勇者の息子。


それは、名実ともに力を得た証拠なのだろう。


父さんのいる頂。


ボクが、目指すべき場所。


「今日は、引き続き打ち込んで来い」


「はい!」


僕は、その後も父さんと剣を交えていく。


だが、そこからの父さんの剣戟は激しさを増した。


一撃一撃がさっきと違ってものすごく重い。


気を抜いたら剣を取りこぼしそうだ。


「ハルマン、一撃を受け止め続けると続かなくなる。それは分かるな」


「はい、いつかは受けきれなくなりそうです」


「なら、打点をずらしてみろ」


「打点をずらす?」


そう言った瞬間。


ボクが放った一撃を父さんの剣にぶつかった剣が滑る。


それによって、ボクは体勢を崩した。


そして、地面に倒れ込む。


盛大な音を立てて。


「どうだ?ハルマン」


「なるほど、打点をずらす。理解しました」


「さて、今日はここまでにしておこう。

ハルマンは、夜の見張りとかはできるか?」


「はい、村にいた時は猟をしていたので」


「このあたりの野生の魔物は大したことはない。が、油断はするなよ。

夜は、俺とお前で見張りを交代でするからな」


「わかりました」


そう言って、父さんは母さんが設営したテントの方へと向かった。

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