第34話 春になったら

どうやら、貴族の子供は12歳の春から王都にある学園に通うらしい。


そして、ボクには異母弟妹がいるらしい。


「ハルマン、お前には俺の息子として貴族の作法を教える。

お前の弟妹は、母親が悪すぎて素行が悪い。

仲良くとは言わない。

それと、剣の師匠が必要なら俺がなってやる。

3ヶ月でどこまで教えられるかはわからんがな」


剣の師匠!


そうか、父さんは聖騎士だった。


なら、ボクはもっと強くなれるんだ。


そうして、食堂での話し合いは終わった。


ボクは、明日にはツァエリを経つことになる。


グランディッシュまでは、3日ほどかかるらしい。



眠れない。


寝ないといけないのに。


ボクは、ベッドから這い出す。


そして、中庭へと向かった。


「ハルマン!」


「え、シアン?」


中庭には、寝間着姿のシアンがいた。


水色のゆったりした寝間着だ。


「シアンも寝れないの?」


「ハルマンもなのね・・・急に明日の朝にはお別れと言われても・・・ね」


「はい、もっとシアンと一緒にいたかった」


ボクは、シアンを抱きしめた。


彼女は、ボクを振り払うこともなく身体を預けてきた。


「ワタクシもです。行かないでといいたいけれど。

この先ずっと一緒にいるには、この別れは必然ですわ」


「はい、だから待っていてください。

春になったら王都で・・・いいえ、春になったら迎えに来ます。

一緒に王都に向かいましょう」


「はい・・・はい。待ってます。

春になったら、ハルマンが来るのを待ってます」


ボクはシアンの頭を撫でる。


これが、彼女との約束。


3ヶ月後の再会に向けて頑張ろう。



夜が明けて、ボクは父さんと母さんと共にツァエリを旅立つのだった。


屋敷前で、シアンと昨夜と変わらずさらに抱き合い。


「シアン、春になったら迎えに来るから」


「はい、待ってます」


「まあみたいなことがあるといやだから出かけるときは呼んでね」


「もう、それじゃあ春までワタクシはお屋敷から出られないではないですか」


シアンは、抗議してくるがその顔はとても嬉しそうだった。


それを見て、大人たちはやれやれといった感じだった。


「マルクスさん、もしもの時は呼んでくれてかまわない。

ハルマンをこちらに寄こそう。

たぶん、行きで大体のことは叩き込めそうだからな」


「わかりました、ではシアンが遠出をする時にはハルマンくんに連絡を入れましょう」


そして、別れの時がやってきた。


でも、これが今生の別れではない。


ボクらは、すぐに会えるのだから。


「行ってきます、シアン」


「いってらっしゃい、ハルマン」


ボクは、馬に跨る。


父さんは母さんを抱えたまま、一頭の馬に跨っている。


そして、ボクらは馬を走らせツァエリを旅立った。

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