第1章 お嬢様と許婚になる

第19話 勇者と聖女

ハルクトは、3日間乗馬をし、時には野営をして目的地に向かっていた。


彼の胸中には、12年前に離れ離れになった愛しき人への想いだけだった。


そうして、ハルクトがやってきた場所。


シーク村。


魔王討伐隊の拠点だった場所だ。


リリアス。


両目に星の聖痕を刻んだ「聖女」と呼ばれた女性。


ハルクトは、乗って来た黒馬から降りる。


そして、周囲を見渡す。


ゆっくりと歩き出す。


そして、ハルクトは見つけた。


愛しき人を。


「リリアス!」


その声に振り返る女性。


彼女は、赤髪を後ろ手に括っている。


服装は、みすぼらしいエプロンドレス。


「ハルクト?」


「すまない、迎えに来るのが遅くなった」


「ええ、12年は長かったわ」


「すまない、ハルマンのことはツァエリの領主から聞いた」


「あの子は、私達の聖痕を両方とも継いでしまった。

これから、王国中の権力が殺到するのよね」


ハルクトとリリアスは、こうなることを予見していた。


幼い頃から、その渦中に巻き込まれるのはあの子の為にならないだろうと思った二人は・・・魔王討伐隊の解散と共に生き別れとなる道を選んだ。


「リリアス、俺の所に戻ってきてくれないか?」


「いいの?私は、いまはただの村娘よ」


「ふふ、お前がか?

どんなリリアスでもいい。

そばにいてくれ。もう、お前と離れて生きるのはいやだ」


「まったく、あなたって人は」


そう言うや否や、リリアスはハルクトの唇を奪っていた。


彼は、そんな彼女を抱き寄せて長い口づけをした。


「さて、リリアス。

ハルマンに会いに行くぞ」


「ええ、気合を入れて準備しなきゃ」


「ハルマンが驚きそうだな」


すっかり、2人は以前の二人の関係に戻っていた。


この二人は、魔王討伐隊の頃にもこんな雰囲気を醸し出していた。


それから、準備を済ませたリリアスを連れてツァエリへと向かった。


ハルクトは、向かう前に村長宅から手紙の転送を行い先触れをしていた。

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