第15話 花の領都の歩き方1

ボクは、お嬢様に手を引かれながら騎士団を出た。


そして、そのまま歩き始める。


「さあ、これからは街を案内するわ」


お嬢様は、とびきりの笑顔をボクに向けてきた。


ボクの胸が高鳴る。


胸の奥がキュッと締め付けらるように切なくなる。


「ほら、いきますよ。ハルマン」


ボクの腕を取り、お嬢様は歩き出す。


それに従うようにボクも歩き出す。


聖堂、領主邸、騎士団詰め所はツァエリの街の中でも東側に固まっている。


ボクら東門に併設している騎士団詰め所を出て中央広場を目指しながら大通りを歩いていた。


大通りは、馬車が行き交っている。


植え込みには、色とりどりの花が咲いていて車道と歩道の区別がしやすい気がする。


また、西に向かう馬車が多いように感じた。


「お嬢様、西向かいの馬車が多いような気がするのですが?」


「よく気づきましたね、まもなく見えてくると思いますわ」


やがて、中央広場へとたどり着いた。


中央広場には、花時計があるようだ。


街中が花が咲き誇っている。


さすが、花の領都と呼ばれるだけのことはある。


「綺麗な街ですね」


「そう言っていただけて嬉しいですわ」


お嬢様の声が弾んでいた。


ただ、彼女の表情を見ることができない。


それほどに近づきすぎている。


この距離感は、主従の距離感ではないことはボクだってわかる。


「お嬢様、そんなに近づかれたら困ってしまいます」


「うふふ、ハルマンは可愛いですね」


ボクをからかってくるお嬢様。


その度に、ボクの胸は高鳴る。


高鳴りすぎて止まったりしないだろうか。


「お嬢様、からかわないでください」


「イヤです。ハルマンが可愛いのが悪いのです」


ボクは、もう押し黙るしかなかった。


お嬢様のこのからかいにボクが慣れることがあるのだろうか。


「さあ、ハルマン行きますよ。

ツァエリの台所・・・マーケット街ですわ」


そう言って、お嬢様は歩を進めていく。


それに合わせてボクの身体も自然と動いていく。

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