第12話 洗礼式
翌朝。ボクは、お屋敷の使用人に用意された高そうな服に身を包んでいた。
昨日来ていた服は、戦闘でダメになってしまったとのことで騎士たちが使っているらしい服を貸与してもらった。
騎士って、こんないい服を支給されているのいいな。
麻の服しか着た事の無いボクが、急に綿の服を着るというのは着心地がいいはずなのに着心地が悪い。
水色のシャツに、黒いズボン。
靴も新しく丈夫な黒革のブーツを戴いてしまった。
「まあまあ、ハルマン。
とってもカッコいいですよ。
そのまま、ワタクシの騎士になっていただけませんか?」
「お嬢様、ありがとうございます。
でも、そんな揶揄わないでくださいよ。
ボクが騎士だなんて」
そうボクが言ったあとお嬢様が小さな声で何かをつぶやいていたがボクの耳には届かなかった。
「さぁ、ハルマン。聖堂へ参りましょう」
「お嬢様も、同行されるのですか?」
「もちろんです、貴方が行くところにワタクシも随伴します。
洗礼式が終わりましたらワタクシと街を散策に行きましょう」
「はい」
ボクは、そのあとお嬢様を伴い聖堂へと向かった。
お嬢様の屋敷から聖堂までは目と鼻の先だった。
昨日は、まったく気づかなかった。
確かにこの距離ならお嬢様が徒歩で外出できるわけだ。
聖堂の前には、子供たちが集まっていた。
人数としては、30人ほどだろうか。
「ハルマン、さあ参りましょう。
貴方の番は一番手にしておきました」
「え!一番手、なぜそんな。
ボクは、平民も平民」
「ワタクシが、一番手といったからです。
いいですから、行きますわよ」
ボクは、強引にお嬢様に手を引かれて聖堂の中へと入っていった。
聖堂には、天井にまで届きそうなステンドグラスが嵌められており陽光が差し込むと神秘的な雰囲気が聖堂内を包み込むようだった。
ステンドグラスは、神話のワンシーンを刻んでいる。
確か、母さんから聞いたことがある。
確か創世の神話。
主神様と地母神様が世界を創ったお話だった気がする。
だから、ステンドグラスにも二人の人物が対面で向き合っている。
男神と女神の姿。
「凄い綺麗です」
「そうでしょう、花のツァエリでは創世のステンドグラスが飾られています。
各地で変わるのですよ。
ワタクシは、先日王都で神々の庭のステンドグラスを洗礼の時に見ることができましたの。
あちらもとても綺麗でした。
いつか、ハルマンを連れて行きますね」
あれ?お嬢様も洗礼を?
大人びているからてっきり年上かと思っていました。
これは、言わぬが花。
「ええ、いつか王都へ参りましょう」
「うふふ、約束ですよ。ハルマン」
ドキっとした。
お嬢様の表情に、とても凛として綺麗だったから。
きっと、ステンドグラスから発せられた光の所為だ。と言い聞かせてボクは歩んでいく。
「さあ、礼拝台の前へ」
お嬢様が、洗礼台の前へ来ると僕の手を離す。
そして、洗礼台の・・・ボクの向かいに立った。
「さて、ハルマン。
貴方の洗礼はワタクシが行うことになりましてよ」
「え?お嬢様が?
ですが、お嬢様は先日洗礼を受けたばかりでは」
「そうです、ですがワタクシも司祭の端くれ。
それに愛しき人の晴れ舞台ならばワタクシがしなければ」
強い意志を感じた。
お嬢様は、司教のケープを付ける。
そして、帽子を付けた。
そこにいるのは、確かに司祭。
とても、美人な司祭だ。
「ハルマン、ワタクシの祝詞のあとに続いてください」
彼女は、大きく深呼吸をする。
そして、真剣な眼差しになりボクに背を向けた。
「大いなる我らが神よ。
太陽が昇り、月が眠る。
月が昇り、星々が瞬き、太陽が沈む。
数多の時を歩みし、貴方様の子が。
今、新たな時を刻もうとしております。
新たなる道標をお与えください。
彼の者の名は、ハルマン・シーク」
そして、お嬢様はボクの方へと振り向いた。
先程までの真剣の顔とは違い、とても慈しみのある笑みを浮かべていた。
「さあ、ハルマン。行きますよ」
ボクは、頷いた。
この後に言うセリフは知っている。
子供の頃から聞かされていた。
誰もが知っている。
「「ステータス」」
そう言った瞬間。
ボクの前に、神の窓と呼ばれる物が現れた。
司祭と本人にしか見ることのできない。
特別の物だ。
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