第9話 シアンの洗礼

「さて、ハルマンの事は分かった。

次は、報告の方を頼む」


「そうでした、うふふ。愛しい人の事でついつい熱くなってしまいました」


マルクスは、娘の表情を見てシアンの母親の姿と重なった。


そして、彼は大急ぎで使いを出す。


「まずい、まずい。アクアの事を忘れてしまっていた」


「確かに、お母様のことを忘れてしまっていました」


マルクスは怯えているが、シアンはそうでもない。


実は、アクアは・・・。


ちょうどその時、勢いよくドアが開けられた。


そこには、シアンの容姿に似ているが彼女をそのまま大人にしたような女性が立っていた。


ウェーブのかかった長い金髪に、水色のドレスを纏った女性。


身長のは160cmほどで、年はマルクスと同年代だというのがわかる。


彼女は、シアンを勢いよく抱きしめた。


「お帰りなさい、シアン」


高く甘い声がアクアから発せられた。


「只今戻りました、お母様」


『それにしても、貴方!!

どうして、すぐに教えてくれなかったのかしら!?』


怒気を孕んだ低い声でアクアは、彼に声を掛けた。


シアンは、その声を耳元で聴いて怯えていた。


「あらら、シアン。ごめんなさいね」


アクアは、シアンを解放する。


そして、マルクスの元に近づいていく。


彼は、ガクガクと震えていた。


アクアは、怒るととても怖い。


それなのに、彼が忘れたのが悪い。


「お母様、そんなことよりも後でお話ししたいことがあるのです」


先程の恋する乙女のような表情でアクアに言った。


彼女も、娘の表情を見て笑みを浮かべた。


「あらら、もしかして。

シアンとは、後でゆっくりお話しさせてもらいましょう。

『貴方はその後にじっくりとね』」


「はい」


魂が出そうなほどに顔を青くするマルクス。


まあ、自業自得だろう。


「では、報告をさせていただきます。

王都での洗礼式で、「巫女」の称号を戴きました」


貴族は、王都にて洗礼式を行うことが義務付けられている。


有能な称号を持つ者を王国が管理するための措置である。


そして、シアンの得た称号は「巫女」。


巫女は、属性毎に称号を持つ者がいる。


彼女は、「水」の巫女になった。


「やはり、巫女を継いだのね」


「はい、司祭も戴きました」


「それは、先の聖女様と同じ称号ね」


聖女は、先の討伐隊に参加していた「光の巫女」を有していた女性である。


彼女の行方は、いまは誰も知らない。


そうして、彼女らの話は進んでいくのだった。

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