7話 変化する彼女【達】
「どうしたもんかな・・・・・・」
ギィ、と椅子の背に体を預けて俺は手に持つアンケート用紙を眺めた。
アンケート用紙には四週間後に控えた学園際の演目について書かれている。
受け持ちのクラスはとても明るい、悪くいえば賑やかすぎる生徒が多く、アンケート用紙にもそれが強く書かれていた。
「メイド喫茶。男の娘喫茶。大道芸大会・・・・・・いや、大道芸って」
「おや? 難しい顔をしていますね。二日酔いですかね?」
「菊池先生・・・・・・流石に週明けから二日酔いはしないですよ」
「んははは。それは失敬。ちなみに私は二日酔いです」
白髭を揺らしてにやりと笑う菊池先生。悪いサンタクロースもいたもんだ。
俺がアンケート用紙を手渡すと、数枚アンケート用紙を確認した菊池先生はニコニコと表情を弾ませる。
「いやいや、実に多様ですね」
「多様すぎるから困っています。採用しなかった生徒からクレームが来ることが分かっているので」
「嬉しい悩みじゃないですか。ただ確かに大谷先生のクラスは賑やかですからなぁ・・・・・・ん?」
何枚かアンケート用紙を捲り、菊池先生が興味深げに捲るのをやめた。
「この生徒・・・・・・珍しいですな。いつも白紙の回答が多かったのに」
「・・・・・・木崎ですか。なんと書いています?」
「大当たりです。模擬喫茶店だそうですよ」
手渡されたアンケート用紙には綺麗な字で『模擬喫茶店』と書いていた。ただ理由が『裏方に回って静かに過ごしたいから。また、女生徒に給仕されてあたふたする担任の姿も見てみたいから』と書いていて、頭が痛くなってきた。
「ここ最近、木崎君は評判がいいんですよね。昔は授業中もどこかうわの空のことが多かったですが、最近は熱心に授業にも参加していますし。何か心境の変化でもあったですかな?」
「ええ、何かはあったのかもしれませんね」
そう。担任教師としては生徒が積極的に授業に参加してくれるのは嬉しい。元々、木崎は目立たないが、授業にもどこか真剣に参加していない雰囲気は確かにあったのだ。
だがここ最近はそう、授業にも積極的に参加している。
あの日からだ。そう思うと少し教師としては複雑かも知れない。
「学生の本分は学業、と教師の立場ではいわなければならないですが・・・・・・少しでも楽しんでもらいたいものです。学生生活は楽しくなくては」
「・・・・・・そうですね」
菊池先生の言葉に俺は頷いた。
「さて、では私もーーーーおや」
「どうしたんですか?」
「いや、木崎君もでしたが、これも珍しいなと思いまして」
「・・・・・・」
俺は菊池先生が捲ったアンケート用紙を見て、確かに驚いた。
そこには予想外の内容と生徒の名前が書かれていたのだ。
希望内容:演劇 氏名:最上彩愛
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