第3話

一言も発することが出来ないままの私を、突然に急かし出した。


「いつまで座っているのです?さぁ!さぁ!支度を!」


突然現れた目の前の小さなおじいさんは、

忙しなく右へ左へと小走りしながら、急げ急げと繰り返す。


体が動かないままの私は、たくさんの言葉が頭の中に浮かびながらも、

漸く声に出すことが出来たのは、言葉になっていない声だった。


「え?あ、あの、は?」


やっとこれだけの声を発すると、

小さなおじいさんは、動きを止めて、私の顔をじっと見つめると、

エ、ア、アノ、ハと抑揚のない声で、私の言葉を繰り返し、首を傾げた。


「あれ?日本人じゃないの?」


そう言って、どこから出して来たのか、

彼の身長と然程変わらない大きな辞書らしきものを広げると、

もの凄い速さで、ページをめくっていく。


「今の言語は、、、えぇ、と、」


「あの、すみません。日本人です。あまりにもびっくりしてしまって。

上手く言葉が出なくて、ごめんなさい。」


私の言葉に手を止めると、今度は、どこからともなく羽ペンが現れた。


「ほほぅ、なるほど。

今のは、言葉が出ない時の言葉とな?エ、ア、アノ、ハ、、と」


辞書らしき大きな本に、見たこともない文字を書き足している。

きっと、言葉が出ない時の言葉と、文字を続けているのだろう。


何やらサラサラと文字を書き終えたおじいさんは、これでよし!と言いながら、

顔を上げた。


「さて、出掛けようではないか!」

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