第4話

そういえば、おじいさんは、さっきから、支度をしろと騒いでいる。

私の夢を叶えてくれるとも。

一体、何のことだろう。


「えっと、どこに、ですか?」


「あれ?空を見上げて、お願いしてなかったかな?彼に逢いたいって。

さて、その彼とは、何処にいるのかな。」


両手を腰に当てて、胸を張り、どうだと言わんばかりの顔で、

今夜は、その願いを叶えに来たのだと言う。


「え?今ですか?」


本当に彼に逢えるのだろうか。

突然現れた目の前のおじいさんをジッとみつめながら考えた。

もしも、彼に逢えるのなら、今すぐにでも逢いに行きたい。

確かに私は、彼の言う通り、空を見上げては、彼に逢いたいと願っていた。


「もう一度だけ、彼に逢いたい。」


静かな声で、私の願いを口にしたのは、おじいさんだった。


もう一度だけ。

その一度を、今、使ってもいいのだろうか。

いや、駄目だ。駄目に決まってる。

私には夢がある。


もしも一度だけ、彼に逢いたいという願いが叶うのなら、

私の夢が叶った時に逢いたい。


頑張っているよ。


なんの一点の曇りもなく、笑顔で、彼にそう報告するために。


「ごめんなさい。今はまだ、彼には逢えません。

逢いたいけれど、逢いたくないんです。」


お爺さんは、首を傾げて、私の言葉を繰り返した。


逢いたいけれど、逢いたくない・・・



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る