第57話 ムカつきました
はなたと別れ、白花と杏との約束の時間が迫った俺は自分の教室の前でまもなく休憩時間になるであろう彼女達を待っていた。
程なくして、メイド姿の白花と杏が手を振りながら俺を呼んだ。
「豊ー! お待たせ!」
「おまたせー!」
「2人ともお疲れ。大繁盛だったな。特にお前達2人の人気は凄かったぞ?」
「皆のおかげだよ。豊も手伝ってくれてありがと! すごく助かったよ。ね、白花?」
「うん! でも、豊が作ったオムライス……私も食べたかったな……」
「いや、あれ冷食……とりあえず行くぞ」
俺を真ん中に右には白花、左に杏という形で歩き出すと彼女達は目をキラキラさせていた。
「凄い! 凄いね杏! ここ本当にいつも通っている学校!?」
「ははは! はしゃぎすぎだよ白花。まずはどこ行く?」
「んーお腹空いたからなにか食べたいかも!」
「よし! じゃあまず屋外の屋台に行こう! 豊が奢ってくれるから好きな物いっぱい食べよ!」
「おい! なんでそうなった!?」
「何か文句でも? 私達と回る前に他の子と先に文化祭を楽しんだ時庭豊さん?」
どうやら杏は俺とはなたが文化祭を先に回ったことがとても気に入らなかったようで、根に持っている。
別にいいじゃないか……。彼女達との約束に支障が出たならともかく、そうではなく俺の空いた時間で文化祭を楽しんだのだから。
しかし、そんなことは口にせず。悩んだ末に俺は自分の財布が空になる覚悟を決めた。
「……だー! わかったよ! お前達はさっきまで頑張ってたし、好きなだけ食えばいいだろ!」
「「やったー!」」
屋外のエリアに辿り着くと、室内ではできない炭火焼調理の焼き鳥や大きな鉄板の上で焼かれたお好み焼きの香りが鼻を擽る。
特に一仕事終えた白花と杏にとっては待ちわびた時間だったようだ。
「おいしそー! 杏! 何から食べる!?」
「すいません! 焼き鳥30本ください! あと焼きそばも!」
「もう頼んでる!」
手当たり次第に注文する白花と杏は持ち前の優れた容姿とメイド服という身なりも相まって、周囲の視線をほとんど集めてしまっていた。
いまや校内で彼女達を知らない者はいない。
しかし今日は文化祭で生徒以外の部外者も大勢、初めて彼女達を見た者は既視感のある反応をしていた。
「おい、あの2人見ろよ! すっげぇ可愛いんだけど!」
「俺……この学校に入ればよかった……」
「そばにいる男は何者だ!? なにしたらあんな美女2人と文化祭を一緒に過ごせるんだ?」
まるで天使を見たかのような周囲のリアクションの原因である白花と杏は食べ物のことで頭がいっぱいで気づかないようだ。
そのまま注文した料理を受け取った彼女達はすぐさまイートインスペースの机に座り料理を頬張っては幸せそうな表情を浮かべた。
「おいし~! さいっこう!」
「おいしいね! ありがと豊!」
一瞬で財布が軽くなった……念の為、多めに持ってきておいて良かった。でも、この2人の幸せそうな顔を見ると悪い気はしない。
「そういえば飲み物無いな……買ってくるけどなにがいい?」
「ありがと! 私お茶! 白花は?」
「私もお茶でいいよ!」
「わかった」
イートインスペースを離れ、近くの店で3人分の飲み物買った俺は彼女達の元へ戻ると、席を外したわずかな時間の間に彼女達は大勢の人に囲まれていた。
「とっても可愛いメイド服ですね! よければ写真撮ってもいいですか?」
「やばい! 近くで見ると余計に可愛い!」
彼女達を取り囲む人の群れはどんどん大きくなり、彼女達の元に向かうのが困難になるほどにまでになる。
この人混みが収まるまで待つことを決め、遠くで見守っていると1組の男性グループが彼女達に言い寄った。
「ねえねえ君達、可愛いね。良かったらこの後、俺達と遊びに行かない?」
「やべぇ! マジで可愛いじゃん! 連絡先教えてよ!」
白花と杏の容姿に惹かれた男達は、彼女達に言い寄る。
男達は皆長身で男性アイドルグループのような整った顔立ちをしていた。
「ごめんなさい。遠慮します」
「私もごめんなさい」
しかし2人はそんな男達になびくことなく、毅然とした態度で断るが、男達はめげずに食い下がる。
「いいじゃん、行こうよ」
「ちょっとだけでいいからさ」
男達は引き下がらない。
その光景を見た俺は彼女達をナンパから救出する為、人混みを掻き分けながら向かおうとすると、1人の男が先程まで俺が座っていた椅子に腰を掛けた。
「じゃあ、ここでいいからさ。ちょっとお喋りしようよ? そうすれば打ち解けられるだろうし」
「ちょっと! そこ豊の席!」
「その席から離れてっ!」
急に態度が変わった白花と杏に驚きつつも、男は席から立ち上がろうとしない。
「豊? もしかしてさっきまでいた男のこと? あんな、いかにも駄目でパッとしない奴よりも俺達の方がイケてるじゃん?」
俺を蔑む言葉を聞いた途端、白花と杏は目つきが変わり同時に席を立つ。
「行こっ! 白花!」
「うんっ!」
「ちょ、ちょっとどうしたの? もしかして連れの男を馬鹿にしたこと、怒っちゃった? しょうがないじゃないか、本当のことなんだし」
「……!!」
男がそう言うと、突如「パァンっ!」と鋭い音が響いた。
杏が男の頬に強烈なビンタをお見舞いしたのだ。
「あなたに豊の何がわかるの!? 豊は誰よりもカッコイイんだから!」
衝撃のあまり何も言わない男に杏はそう吐き捨て、白花と共にその場を離れた。
「お、おい! 杏、白花!」
「あっ豊! 行こっ!」
不機嫌な表情を浮かべながら、杏は俺の手を引く。
「お、おい杏!? どうしたんだよ!?」
「頭に来ちゃう!」
そのまま人気のない場所に連れられると、いまだ怒りが収まらない杏と白花は口を開いた。
「杏! 私、あの人達嫌いっ!」
「私も! なんなのあいつら! 豊のこと、なんも知らないくせに!」
「杏? 俺の為に怒ってくれたのは嬉しいけど、流石にビンタはやり過ぎじゃないか?」
「だってあの人達、豊のこと馬鹿にしたんだもん!」
「だからって……それにあの人の言ってることもあながち間違いじゃ無いだろ? 皆、俺より背が高くて顔も良くてかっこよかったじゃないか」
そう言うと、杏は「はぁ!?」っと言って溜め息をついた。
「どこが!? ねぇ白花?」
「うん! 豊よりカッコイイ人なんていないもん! 杏があの人をビンタしたとき、なんだかスカッとしちゃった!」
「ふふっ私も! あーなんか、怒ったらお腹空いちゃった!」
急に恐ろしいことを言い出した杏に俺は嫌な予感がした。
そんな杏に白花が同調する。
「私もお腹空いた!」
「よし、なんか食べよ! 行こ、豊!」
「えっ?」
そうして彼女達に強引に連れられた俺の財布は空になったのだ。
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