第51話 長い夜の始まりでした
突如俺の部屋で寝ると言い出した涼森に、俺達3人は今日1番の驚きを見せた。
「いいわけ無いだろ! なんで俺の部屋で寝るんだよ!」
「そうそう! そんなの絶対に認めないから! ほら白花も何か言ってやって!」
「そうだよ! 私だって、ずっと前から豊と一緒に寝たかったのにずるいよ!」
「「……白花?」」
俺達3人の中で白花だけは違うベクトルで反対のようだが、肝心の涼森自身は全く気にしていないようだ。
「別に良いじゃないですか~減るもんじゃないし」
そういう問題ではない。むしろ俺としては大問題だ。
考えてみろ、思春期の男の部屋に容姿の整った美少女が泊まるんだぞ? 絶対に駄目だ。
「絶対に駄目だ! お前は杏と白花と一緒の部屋だ!」
「嫌です! それじゃあ私が先輩の家の泊まる意味がほとんどありません!」
「どういう理屈だよ!?」
絶対に引かない涼森に俺は最終手段に出る。
「じゃあ、お前が俺の部屋で寝るなら俺は今日は外で寝る!」
「え!?」
「お前が引かないなら、俺は家の外で夜を明かすと言っているんだ」
「いやいや! もうこの時期の夜は気温も低いですよ!?」
「誰が野宿すると言った? その辺のネカフェでも利用するさ」
金はかかるが、しょうがない。だがここまでの提案をすれば涼森も諦めてくれるだろう。
しかし、俺の作戦は失敗に終わる。彼女が悩む素振りを見せていると、涼森よりも先に声を上げる者がいた。
「嫌っ! 絶対に嫌だ!」
声の主は目に涙を浮かばせた白花だった。
「嫌だよ豊! 豊が外で寝るなら私も一緒に外で寝る!」
「はぁ!?
「豊がいないと寂しいもん! 絶対に……絶対に駄目なんだからぁ!」
泣きながら白花は俺に抱き着く。その光景を杏がジト目で見つめながら溜め息をついた。
「はぁ……涼森さん、ここは諦めて私達と一緒に寝よう? そしたら豊も外で寝ることないし、白花もそれでいいよね?」
「うん……豊が近くにいるなら私はそれでいいよ」
「じゃあ、そうしよう? 涼森さんも荷物を白花の部屋に持っていこうね?」
しかし、涼森は返事をせずに再び悩む素振りを見せる。すると、何かを決断したように顔を上げた。
「……こうなったら、私も最終のカードを切るしかない。よし! じゃあみんな一緒にこの部屋で寝ませんか?」
「「賛成!」」
涼森の提案に即答した白花と杏、たまらず俺は彼女達にツッコミを入れた。
「いっいやいやいやいや! どうしてそうなる!?」
3人がここまで息を合わせたのは初めてだ。
特に涼森とは、いつもいがみ合って水と油状態の杏が彼女の提案に乗るのは珍しい。
「たまには良いこと言うじゃない涼森さん。ちょっとだけ見直したわ? ちょっとだけね?」
「それはどーも波里先輩。 まぁ本当は時庭先輩と2人きりが良かったけど……仕方ありません。ということで……時庭先輩、お願いします!」
俺に頼み込む涼森に、白花と杏も続く。
「いいよね? 豊?」
「豊おねが~い!」
こいつらは、どうしてそんなにも俺の部屋で寝たいんだよ……。
しかしどれだけ訴えかけても、もう無駄だろう。諦めた俺はヤケ気味に答える。
「……もう勝手にすればいいだろ……」
俺の許可が出た途端、涼森は「よっしゃ!」と叫び、杏は「やった!」と笑顔を見せ、白花は「ふふふ、豊と一緒のお部屋で寝られる」と頬を緩ませる。
そんな3人に俺は溜め息をついていると、1階からじいちゃんの声が響く。
「風呂の準備できたぞー!」
その声に杏が反応する。
「お風呂沸いたって! 誰から行く?」
杏の言葉に白花が手を挙げる。
「はいはい! 杏、一緒に入ろ!」
「おっいいね!」
「杏とお風呂入るの久しぶりだな……あっ豊も入る?」
「入るわけねぇだろ!!」
自分がとんでもないことを口走ったのを理解していないのか、白花が少し残念そうにしていると次は涼森が俺の袖を引っ張る。
「じゃあ、私と一緒に入ります?」
「お前、人の話聞いてた?」
マジのトーンで涼森にそう言うと、なぜか杏が勝ち誇った表情を浮かべていた。
「ふっふっふ、私は豊と一緒にお風呂入ったことあるけどね!」
「はぁ!? おまっ!」
この状況でとんでもないことを杏が暴露したせいで、涼森と白花が鋭い目で俺を睨みつける。
「なっ!? どういうことですか先輩!!」
「どういうことなの!? 教えて豊!」
「違う、違うぞ!? おい杏! 変なこと言うな!」
「だって本当のことじゃん」
慌てる俺を見ていて楽しいのか、杏はニヤニヤと笑う。
確かに、杏と一緒に風呂に入ったことは俺も覚えている。だがそれは……。
「幼稚園の時の話だろうが!」
俺の弁明に、涼森は「なんだ……」言って胸を撫でおろすが、納得いかない様子の人物が1人。
そう白花だ。
「杏だけずるい! 私も豊と一緒にお風呂入る!」
「……いいからお前らさっさと風呂入ってこいっ!!」
俺の怒号と共に、長い長い夜が始まった。
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