第50話 大反対でした
突如、時庭家に泊まると言ってパジャマを取り出した涼森に俺は当たり前の反応をする。
「泊まる!? お前本気で言っているのか!?」
「はい! ちゃんと私の両親の許可は得てますから安心してください!」
屈託のない笑顔をする涼森に、驚愕するのは俺だけではない。杏は立ち上がり、声を荒げる。
「な、何言ってるの!? 良いわけないでしょ!」
「えぇー! 駄目なんですか?」
「当たり前でしょ! 豊だって困るよね!?」
「そ、そうだな……流石にな……」
「ほら! この家に住む豊がこう言ってるし、お泊まりは駄目! ぜーったいに駄目!」
必死な杏に涼森は物怖じする事なく、淡々した表情をしている。
「じゃあ、波里先輩。この家に住む人の許可が降りたら、お泊まりしても良いんですね!?」
「まぁ、そうだけど……豊、わかってるよね?」
杏は「許可を出したらどうなるかわかるよね?」と言わんばかりに睨む。
もちろん俺も余程の理由が無い限り、首を縦に振るつもりは無い。
しかし、涼森が俺を説得するという予想は外れることになる。
「じゃあ、許可取ってきます!」
涼森は立ち上がると、部屋を出て行ってはすぐに戻ってきた。
「許可取ってきました! 時庭先輩のお爺ちゃんに!」
――じいちゃんっ!?
杏も、涼森がまさかじいちゃんから許可を取ってくるとは思わなかったのだろう。
「源さん……なんてことを……」
うなだれる杏とは反対に、涼森は勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、目を輝かせている。
「えへへ……先輩と同じ屋根の下……どれほど夢見たことか……」
「はぁ……ちなみにじいちゃんはなんて?」
「『おぉ~泊まってけ泊まってけ』とのことです! 夕食も私の分も用意してもらえるようです」
「じいちゃん……」
こうなってしまったら、俺達に拒否権は無い。
「おーい飯できたぞー!」
1階からじいちゃんの声が聞こえると、今まで蚊帳の外だった白花がばっと立ち上がった。
「ご飯だ! 私お腹空いた!」
「そうだな。とりあえず夕食にしよう。ほら杏、行くぞ」
いまだにうなだれている杏をなだめながら、俺達は部屋を出た。
――ダイニングにつくと、テーブルにはいつも通りじいちゃんの作った食事が、食欲をそそらせる香りを漂わせていた。
俺達にとっては見慣れた光景だが、もちろん涼森にとっては違う。
「すごーい! 美味しそう!」
食事を眺める涼森になぜか白花は自慢げだ。
「ふふん、源さんの料理は最高なんだんから!」
いつもより1人分の食器が多い、夕食の席に皆が座るといつもより騒がしい夕食が始まると、涼森は感動の声を上げる。
「美味しい! とっても美味しいです! 時庭先輩のお爺ちゃん!」
「そう言ってもらえると、嬉しいなぁ! 口に合ったようで良かった」
「ほんとに店を出したら行列ができるレベルですよ! こんな美味しい料理を毎日食べられる先輩は羨ましいな……私は料理苦手だから……」
「ほう……なんらならレシピを教えてやろうか?」
「本当ですか!? 是非ともお願いします!」
「わかった。じゃあ今度、まとめておくよ」
「ありがとうございます! よしこれで先輩の胃袋を掴んでやる!」
余計なことをしたじいちゃんは杏はジト目で睨まれていることに気付かないまま、5人での夕食は進んでいった。
――夕食を終えた俺達が部屋に戻ると、涼森が杏を見てニヤリと笑う。
「さてさて、もう遅い時間ですし……この家に住んでいる時波先輩は仕方ないとして、波里先輩はそろそろ帰る時間じゃないですかぁ?」
煽る涼森に杏は眉をピクリと動かすが、すぐに返事はせずに、少し経ってからボソッと呟き始めた。
「……泊まる」
「え? なんて言いました?」
「私も泊まる!」
その言葉を聞いた俺は思わず「えっ!?」と声を上げる。しかし、杏は本気のようだ。
「私も豊の家泊まる! ねぇ豊、良いでしょ!? お願い! お願いします!」
上目づかいで頼み込む杏に俺は嫌とは言えなかった。というよりも、この状況で1人増えたとしても特に問題無い。
「……あぁもう、わかったよ! 杏も泊まっていけよ!」
そう言うと、杏はパッと明るい表情を見せる。
「やったぁ! ありがと豊!」
ジャンプして喜びを表す杏を見て、涼森は舌打ちをする。
そんな中、白花は杏と同じように嬉しそうな表情を見せた。
「えっ!? 杏も家に泊まるの!? やったぁ!」
大好きな杏と寝る時も一緒にいられることを喜ぶ白花。そんな彼女達を見た俺はあることに気付く。
「あっそうだ。涼森と杏の布団と寝る場所を用意しないとな。どうする2人とも? 白花が良ければ白花の部屋で寝てもいいけど、気になるんだったら部屋が余ってるから使ってもいいぞ?」
そう言うと、まずは白花が反応した。
「私は全然かまわないよ! むしろ、大歓迎! 杏、涼森さん、寝るまで一杯お話しよ!」
「うん! 涼森さんも……1人は可哀想だし、嫌じゃなかったら私達と一緒の部屋においでよ」
確かに杏とは犬猿の仲だとしても、涼森1人は流石に可哀想だ。
しかし、肝心の涼森自身は何も答えず、俺の部屋で荷物を広げていた。
「涼森? 何してるんだ? 俺の部屋で荷物広げて……」
「え? 寝る準備ですけど?」
当たり前のように荷物を広げ、寝袋を取り出した涼森に嫌な予感がした。そして、こういう時の嫌な予感とはよく当たるものだ。
「私、先輩の部屋で寝ますから!」
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