第44話 相変わらず仲は悪そうでした
「時庭先輩? どうして、この2人がいるんですか?」
「1人で行くって言っても聞かなくてな……」
涼森から土産を貰う為、待ち合わせ場所である恵花ガーデンに向かった俺だが、ただそれだけの用事なのに、何故か白花と杏も着いてきた。
「も〜『先輩1人で来て』って言ったのに……」
かなり残念そうな表情をする涼森に、杏が声をかける。
「私達がいることに何か問題でも?」
「大アリですよ! あなた方がいると、時庭先輩とラブラブできないじゃないですか!」
バチバチと火花を散らしている杏と涼森の横で、白花は不思議そうに杏に問いかけた。
「杏、ラブラブってなに?」
「あとで教えるね白花ちゃん……とりあえず涼森さん? 豊にお土産を渡しに来ただけなんでしょ? 早く渡したら?」
「本当にそれだけだと? お土産はこのまま先輩を堪能するための、きっかけ作りですよ?」
「それ、本人の目の前で言っても大丈夫なのか? 堪能? 何、俺食われでもするの?」と心の中でツッコミを入れていると、涼森はそのまま言葉を続ける。
「あと、前から思ってたんですけど……波里先輩と時波先輩って、いつも時庭先輩と一緒にいません?」
「そうだよ? 私達、毎日一緒に豊の家にいるもん」
涼森の疑問に真っ先に答えたのは白花だった。
「ほぼ毎日一緒!? 白花先輩は親戚と聞いてるから時庭家にいるのは考えられなくはないですけど……どうして波里先輩も?」
「杏は昔から豊と仲良いし、家も隣だし」
「お二人が仲良しなのは知ってますけど、だとしても夏休みをほぼ毎日同じ屋根の下で過ごすなんて……ちょっと変じゃありませんか?」
涼森の疑問は当然だ。現在杏は1日のほとんどを、俺の家で過ごしている。自分の家に帰るのは夜寝る時くらいだろう。いくら幼馴染とはいえ、客観的に見たら今の彼女の生活は……確かにおかしい。
しかし、彼女が我が家に入り浸るようになったのは元はと言えば、当時言葉すら喋れず、記憶を無くして人間として生きる最低限の知識すら持っていなかった白花の面倒を見るにあたって、男の俺とじいちゃんでは難しかった入浴や着替えなどのサポートを杏に頼んだことが始まりだ。
白花がここまで自立できた今、杏が家に来る当初の理由は無くなったのだが、多忙な両親がほとんど家に帰らない為、家では孤独な時間を過ごす彼女を気の毒に思った俺が「いつでも俺の家にいて良い」と言った為、今に至る。まぁ、それで杏が少しでも寂しい思いをしないで済むのなら、俺としてはそれで良い。
「どういう関係って言われてもなぁ……」
「なっ!? 波里先輩、それはなんですか!?」
涼森が驚いた理由、それは杏が突如取り出しては人差し指にはめて、くるくると回しているキーホルダーについた鍵だろう。
「ふふーん。なんでしょうか?」
「ま、まさか……時庭先輩の家の合鍵!?」
正解だ。あれは俺が杏に渡した、我が家の合鍵。何故あんなにも挑発するように見せびらかして勝ち誇った表情をしているのかはわからないが。
「私も持ってるよ?」
杏の真似をするように白花も自身の合鍵を取り出した。それを見た涼森は頬を膨らませ、駄々をこね始める。
「むー……ずるい! ずるいです! 時庭先輩、私にも合鍵ください!」
「流石にそれは……白花は親戚だし、杏は家族ぐるみの仲だから持ってるだけで、涼森に渡すわけには……」
「うぅ……親戚と幼馴染のポジションは強力ですね……」
がっくしと肩を落としたのも束の間、涼森は顔を上げて力強い眼差しで俺を見つめた。
「じゃあ先輩! 合鍵じゃなくても良いので、私にもなにかください!」
「ください」と言われても、貰いに来たのは俺なんだが……。
「今の俺に渡せる物は無いな……」
「うぅ……じゃあ私も! 私も先輩の家に行って一緒に過ごしたいです!」
「「はぁ!?」」
俺と杏の声が見事に重なる。
「なんで、俺の家に来たいんだよ?」
「好きな人の家に行ってみたいって思うのは、当たり前のことじゃないですか? そうだ! 次のテストに向けて先輩の家で勉強を教えてください!」
「いや、それは俺の家じゃなくても、図書館とか……」
「いいえ! 先輩の家じゃないと駄目です! お願いです!」
顔を近づけて、うるうると瞳を滲ませながら訴える彼女に「嫌」とは言えなかった。
「……まぁ、勉強を教えるくらいなら」
「……! やったぁ!」
両手を挙げて喜ぶ涼森。背後から俺を見ているであろう杏の視線が怖い。
「じゃあ今日は邪魔者もいるので、お土産を渡して帰りますね! はいこれ!」
「あ、ありがとう」
差し出された土産を貰うと、涼森は背中を向けて走り去ろうとしたが……「あっそうだ」言って、再びこちらを向いては俺に抱き着いた。
「お、おい!」
周りの視線が耐えられない……特に後ろから向けらている杏の視線の冷たさが更に増した気がする。涼森自身はそんなこと気にしていないようだが。
「えへへ、先輩……大好きです」
すりすりと俺の体に顔を擦り付ける彼女の顔は幸せそうだ。背後からは白花の「ずるい!」という声が聞こえる。
「……よし、補給完了! それじゃ先輩、失礼します!」
「あ、あぁ……」
今度こそ走り出した彼女が見えなくなると、白花と杏が俺を呼んだ。
「豊? どうするの? どうしてくれんの?」
「後で、私も抱き着かせてね?」
この後、抱き着いたまま離れない白花と、へそを曲げた杏の対応に追われたのは言うまでもなかった。
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