第45話 元気がありませんでした
「白花ちゃん、準備できた?」
「バッチリ!」
今日から2学期。久々の学校で私の心は踊っているけど、豊と杏の顔は晴れない。豊は単純に学校に行くのが面倒みたいだし、杏は徹夜で宿題を終わらせた影響で寝不足のようだ。
「3人とも、気をつけてな」
「ありがとじいちゃん、行ってきます」
「「行ってきます!」」
身支度を終え、玄関で靴を履く私達を見送りに来た源さんに元気良く挨拶を告げて家を出た。
久しぶりの学校までの道中はなんだか懐かしいような、不思議な気持ち。夏休みは毎日一緒だったのに、制服姿で通学路を歩いているだけで、こんなに気分が違うなんて。
でも、やっぱり私達3人全員が同じ気持ちではなさそう。特に豊の足取りは重そうだ。
「はぁ……今となって感じるが、短い夏休みだったなぁ……」
学校が億劫だと言わんばかりに大きな溜め息を吐く豊に、隣を歩く杏がフォローを入れた。
「まぁまぁ豊……ほら、2学期は文化祭とか、楽しみだってあるしさ! 面倒くさい事ばかりじゃないよ!」
文化祭……クラス毎で模擬店や合唱、演劇などの催しを行い、運動能力を競う体育祭よりも、そのクラス毎の特徴が現れやすい高校の一大イベントの1つ。私自身、体育祭の時はまだ生徒ではなく一般人として見ていたから、事実生徒として参加する初めての大きな行事。正直、前からとても楽しみにしていた。
「豊、杏、一緒に見て回ろうね!」
「わかったよ白花ちゃん。 豊も良いよね?」
「……まぁ、いいけど」
豊が照れている理由はわからないけど、この3人で見て回る文化祭はきっと楽しい。楽しくないわけなんてない――そんなことを考えていると、あっという間に学校に着いてしまう。
久々に通る校門には、私達の担任の教師がいた。
「おはようございます、先生!」
「おはよう時波、波里、時庭。良い夏休みを過ごせたか?」
担任の質問に自信を持って答える。
「とっても、有意義に過ごせました!」
「なら結構。それはそうと……時庭、今年は問題起こすなよ?」
突如表情から柔らかさが消えた担任に忠告された豊は、動じずに返事をすした。
「……えぇ、今年は大人しくしてますよ」
「わかっているならよろしい。理由はどうあれ次停学になったら、流石に擁護できないからな? じゃあ、先生は始業式の準備があるから、またあとで」
――豊が、停学!?
その場を去る担任に何も言わず、私は驚きのあまり、取り乱しつつも杏に訳を聞く。
「どういうこと!? 豊が停学って!? ねぇ杏、停学って悪いことして学校に来られなくなることでしょ? 豊、悪いことしたの?」
「……豊は、なにも悪いことなんてしてないよ」
「でも……悪いことしてなかったら、停学にはならないでしょ? なにがあったの?」
「……ごめん白花ちゃん。今その話題は、辞めてほしいかも……」
「え? 杏?」
「私用事思い出したから、先に行ってるね」
「杏、ちょっと!」
呼び止めても、杏は顔を俯かせたまま行ってしまった。
「ねぇ、豊? 杏どうしちゃったの? 私、なにか杏を怒らせることしちゃったのかな?」
不安な表情をする私に、豊は少し難しそうな顔を見せる。
「大丈夫。白花はなにも悪いことしてない。ただちょっと訳があって、俺からは話せないんだ。ごめんな」
「そっか……杏大丈夫かな?」
「……俺、ちょっと行ってくるよ。白花、先に教室に行ってくれ」
「う、うん。わかった……」
本当は私も豊と一緒に杏の元へ行きたかった。でも、あの2人だけの秘密に出会って半年すら経っていない私がズカズカと踏み込んで良いはずがない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、2学期初日は進んでいく。豊はいつも通りだけど、杏はずっと元気がなかった。昼休みにいつもの4人で昼食を食べた時も、放課後を迎えた後も、家に帰ってからも。
自室で服を着替えながら、今日元気がなかった杏のあの表情を思い出すと、溜め息を漏らした。
「……はぁ」
今朝とは打って変わって、沈んだ気持ちで着替えを終えると、コンコンと2回ノックの音が聞こえる。扉の向こうからは杏の声が聞こえた。
「白花ちゃん、今いいかな?」
「杏? うん……大丈夫だよ」
扉を開けて部屋に入ってきた杏は、少し下を見ながらこう言った。
「今日ごめんね? 私、ずっとどんよりしてたよね」
「私は大丈夫だけど、杏大丈夫? やっぱり私が気づかないうちに、杏が怒ることしちゃった?」
「違う違う! 白花ちゃんは関係ないの! あのね……今日先生が言ってた、豊が停学になった話と私が元気がなかった理由、白花ちゃんには話しておこうと思って……」
「……わかったよ、座って話そ?」
2人でベッドに腰掛けると、杏はおもむろに話を始めた。
「……実はね、豊が停学になったの、……私のせいなんだ」
「え!? 杏のせいって、なんで?」
「うん、あのね……」
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