第43話 やっぱり終わりそうにありませんでした
残すところ、あと僅かとなった夏休み。いろんな場所へ出かけたが、今日彼女達は家から出ることはないだろう。
「もーやだー! 休憩しようよー!」
「駄目だよ杏。早く終わらせないと2学期に間に合わなくなっちゃうよ?」
2人が俺の部屋の机にノートや教材を広げて、まだ30分。杏の集中力はもう限界のようだ。
「お前ら……夏休みの宿題をやるのは良いけどよ、どうして俺の部屋のなんだ?」
「別に良いじゃん。というより、なんで豊は宿題終わってるの!? ほとんど私や白花ちゃんと一緒だったのに、いつのまに終わらせてたの?」
「俺は寝る前とかにコツコツやってたんだよ」
「くっ……豊のくせに……」
俺と杏のやり取りを見て、白花が笑う。
「ふふ、豊は偉いね」
「白花ちゃん、油断しない方がいいよ? 豊って基本何事もそつなくこなすけど、スケベだから」
「おい、辞めろ!」
「私は豊がスケベでも、何も気にしないけど? むしろ、それで豊が満足するなら嬉しいかな」
「白花ちゃん? 今とんでもないこと口走ったのわかってる?」
「お前達……俺がスケベという前提で話を進めないでくれ……」
白花の言葉に驚愕していると、俺のスマホに1件のメッセージが届く。相手は……涼森だった。
「時庭先輩こんにちは! せっかく連絡先を教えてもらったのに、すぐに連絡できなくてごめんなさい。昨日本州から帰ってきたんですけど、お土産渡したいので、今日
……気乗りしないなぁ。しかし、土産も用意してくれたんだ。行くしかない。
「わかった、じゃあ今から向かう」と文章を入力して送信する。
「ちょっと、出かけてくるわ」
立ち上がって、支度を始めた俺を杏が呼び止める。
「え? 待って豊。どこ行くの?」
余計な事は言わないほうがいい。白花はともかく、杏と涼森は何故か仲が悪い。俺が「涼森に会いに行く」と言ったら確実に良くは思わないだろう。
「……ちょっと用事を思い出した」
「……白花ちゃん」
「うん、わかってるよ杏」
何かを察したように、意思を疎通させた彼女達はペンを置いて同時に立ち上がると、何も言わずに俺の左腕を杏、右腕は白花がガッチリと腕を組む。
「お、おい!? いきなりどうしたんだよ?」
左腕を拘束している杏が答えた。
「用事ってなに? どこへ何するために外出るの?」
「ちょっと知り合いに会ってくるんだよ! 土産を貰ってくるだけだ!」
今度は右腕側にいる白花が質問する。
「知り合いって誰?」
「高校の知り合い……」
「……怪しい! 杏、豊怪しいよ!」
「行かせちゃ駄目だよ白花ちゃん!」
頑なに俺を信用しない2人が絡まている腕の力を強めると、右腕に何やら柔らかい感触を感じた。ふと見ると、右腕に密着させた白花の体で、一際存在感を放っている箇所が俺の腕に押さえつけられていた。
「ちょ、白花!?」
「むー……行っちゃ駄目、豊」
彼女は俺を拘束することに必死で気付いてないようだ。男として、決して無視できないものがいまだ続いている。
「……!? いて! いてててて!」
突如、左腕に激痛を感じる。すぐさま痛みのある方へ顔を向けると、杏が笑顔で左腕を思いっきり
「スケベ豊、いやスケベタカ? 左腕には何も感じないようでごめんなさいね?」
「いや、違っ……いてててて!」
冗談ではなく、本当に皮膚が千切れるのではないかと思うほど痛い……。
「それで豊、どこの誰に会いに行くの?」
「涼森、涼森だ!」
痛さのあまり、口を滑らせてしまった。
「……やっぱり」
杏は「最初からわかっていた」と言わんばかりの反応をしながら、抓る指を離す。
「知ってたのか?」
「確証はなかったけどね。豊が私達に隠して会いに行く人なんて、限られてるから……それで、お土産を貰うっていうのは本当?」
「あぁ、せっかく用意してくれたんだ。断る訳にはいかないだろ?」
「それはそうだけど……」
「ということで、行ってくるから2人とも離してくれないか?」
そう言うと、2人は渋々絡ませた腕を離した。
「じゅあ、行ってくる。すぐ帰ってくるから……」
「「……」」
2人は何も答えなかった。
——家を出て、恵花ガーデンに到着すると、聞き覚えのある声が俺を呼ぶ。
「あっ! 時庭せんぱーい! ここでーす!」
声のする方を向くと涼森がこちらに手を振りながら、小走りで向かってきていた。
「すまない、待ったか?」
「いえ,全然! ……!?」
涼森は突如驚いた表情をしたが、それもそうだ。彼女にとって予想外の光景が、そこに映っていたのだから。
「こんにちは、涼森さん」
「札幌で会った以来ですね」
2つの声に涼森は顔を引き攣らせた。
「な、なんで……あなた達がいるんですかね?」
「ふふ、べつにいいじゃない? ね、白花ちゃん?」
「うん。私達がここにいたら問題でも?」
俺の背後にいる白花と杏がうっすらと笑った――。
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