第38話 日差しが雲に阻まれました
東から連絡が来たことで俺と篠原は店内に戻り、彼と雅と同じ席に座る。
「すまねぇ豊。説明が遅くなっちまった。えーと……」
「篠原から、おおよそは聞いているから大丈夫だ」
「え? あぁ、そうなのか」
「それで……気になるのはお前達2人の今後だが……今日この場に来た俺には教えてくれるだろ?」
俺が東にそう言うと、篠原が手を上げた。
「はいはーい! 私にもその権利はあるかと思います!」
「も、もちろん! えーとなんだ、その……」
口ごもりながら東は俺達の質問に答えようとするが……照れくさいのか、はたまた別の意味で言いずらいのか、とにかくはっきりしない口調だ。しかし、覚悟を決めたのか深く深呼吸を1つすると、言葉を続けた。
「結婚を前提に付き合うことになった」
東がそう言うと、篠原が両手で口を押さえてはしゃぐ。
「きゃー! 陽絵おめでとー!」
「あ、ありがと」
篠原から祝福の声を受けた雅は照れているのか、顔を真っ赤にさせている――いやそれに関して俺の隣にいるこいつも一緒か。
雅ほどでは無いが、顔を赤くしている東に俺は心から自然に湧き出た言葉を伝える。
「おめでとう、東」
「お、おう」
「まさか、女っ気の無いお前に先を越されるなんてな」
「うるせーよ、お前はいつもハーレムパラダイスだろ? バチが当たったんだよバチが」
ハーレムとは白花と杏のことか? 確かにあんな美少女2人と一緒にいられるのは羨ましく思えるかもしれない。しかし、当人にしてみたら気を使わなければいけない点が多すぎて、心労が絶えないのだが……この悩みは贅沢なのだろうか?
一旦、この考えは
俺はいまだに顔を真っ赤にしている雅にも声をかけた。
「雅、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
いまだに言葉も表情も固いな……彼女の緊張を解く為に世間話でも振ってみるか。
「そういえば……どうして高校からは日本で過ごせることになったんだ?」
「ち、父が仕事の都合でしばらく日本にいることになったんです」
「へぇ、それは雅にとっちゃ好都合だったな」
「い、いやでも……『今更帰ったところで東くんには会えない』って思ってましたから……だから、はなたちゃんが撮った時庭先輩の写真に東くんが映っていたのを見た時は本当に驚きました」
おっ少し緊張が解けてきたか? 口数が多くなってきた。
安心も束の間、篠原が雅の背中を優しく叩きながらこう言った。
「陽絵ったら、写った江夏先輩を見た途端に『私の旦那さん!』ってめちゃくちゃ大きな声で叫んでたんですよ」
「ちょっと、あっちゃん! ……うぅ」
篠原の余計な一言で雅は先程よりも顔を赤くして恥ずかしそうに俯くいてると、彼女のスマホが鳴る。
「あっ電話だ……」
雅がスマホを手に取り、相手を確認する。
「陽絵、電話?」
「うん、執事から」
彼女は執事からの電話に出る。内容は彼女の返答からして、今日この後の予定だろうか? 彼女は海外にも展開する企業のご令嬢……そんな彼女のスケジュールや身の回りの管理を担う執事はちょっと頭が良い程度では務まらないのだろう――と容易な想像が頭の中で膨らむ。
短い電話を終えると「失礼しました」言いながら頭を下げる彼女に東が声をかけた。
「相変わらず、忙しいんだな」
「そんなことはないけど、でもこの後にパパと会う予定があるの」
「おぉ、普段会えないもんな」
「うん、高校入学祝で食事に行ってくるんだ」
高校の入学祝い? 既に今は8月。入学してから4ヶ月は経過しているぞ……。
「ずいぶん遅れた入学祝いだな」
「父はいつも各地を飛び回ってるので、娘の私でも会えない事が多いんですよ。前に一緒に過ごしたのは年末年始ですし」
彼女の表情は寂しげのかけらも見えない。きっと幼い頃からそれが当たり前だったのだろう。
「自慢ではありませんが、父のおかげで裕福な生活をさせてもらっていますから……それにこうしてこの町に戻って来れたのも、父の仕事の影響なんです」
「へぇ……ちなみにどんな仕事なんだ?」
「基本的には機械製品……特に半導体関係ですね」
「半導体……昨今は半導体不足というのはニュースでよく見るな」
「はい。その影響もあって父はいつも引っ張りだこでして」
「確かにこれだけ不足していると、少しでも需要を満たす為に企業は必死に動くだろうな……じゃあこの街に帰ってきたのもその関係か?」
「それもない訳ではないですけど……実はこの町に帰ってきた大きな理由は父の会社が出資したあるプロジェクトみたいです。ご存知ですか?」
大きなプロジェクト? 聞いた事がないな。
恵花市は狭いところではないが、市の3分の2は森林に覆われいおり、その残りに俺達人間が住んでいる。その為彼女の言うような、大きい行事があれば知ってるはずなんだ
が……。
「初めて聞いたな……東、知ってたか?」
「いや……俺も知らないな」
「まぁ知らなくても無理ありません。あまり大っぴらには公表してませんから」
「そうなのか、一体どんなプロジェクトなんだ?」
「この町で以前から計画されていた……」
彼女がそう言うと、言葉をすべて言い終える前に太陽が雲に隠されたのか……窓から刺していた陽の光が消えて、店内が少し暗くなる。
「遺跡の再発掘です」
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