第37話 流出しました
「まさか、涼森がお前達の共通の友人とはな……」
「まぁ、私は小さい時から陽絵と接点はありましたけど、はなたと陽絵が出会ったのは高校に入学してからです」
ということは、涼森と雅が出会ってからたった4ヶ月か……涼森の人柄から、人見知りの雅でも打ち解けるにはそう時間もかからなかっただろうな。
「まぁ涼森の性格なら、誰とでもすぐ仲良くなれそうだもんな」
「そんなこともないですよ? 先輩の前じゃわからないでしょうけど……はなた、あぁ見えて大の男嫌いなんですから」
「はぁ!? あの涼森が男嫌い!?」
「どうやら、俺の知ってる涼森と彼女の友人である涼森は同姓同名の別人のようだ」と思えてしまうほど、信じられない彼女の言葉に今日2番目の驚きの声が出てしまう。
よほど滑稽な顔をしていたのだろう、可笑しそうに彼女が笑いながら答えた。
「ふふ、びっくりですよね。でも、本当のことなんですよ?」
男の俺に会うや否や、人目を気にせず抱きついてくるあいつが男嫌い? いやいや……まさか、あいつが男嫌いなら世の中の女性はみんなそうだ。
「すぐ俺に抱きついて、『運命』だの『赤い糸』だの言うあいつが男嫌い? ……すまん、やはり信じられん」
「先輩からしたらそう思うのも無理ないでしょう。でも、あの子が他の男の人と絡むところを見たことあります?」
「それは、無いな」
「でしょ? 基本的に男の人から話しかけられるだけ露骨に嫌な顔するんですから。そんな、はなたから『好きな人ができた』って聞いた時はめちゃくちゃ驚きました」
篠原はそう言うと、スマホを取り出し1枚の写真を見せてくる。写っているのは……俺だった。
「俺の写真じゃねぇか……いつ撮ったんだよ」
「先輩に惚れたはなたがこっそり撮ったみたいですよ。あの子がこの写真を見せて、『この人が好き』って言ったんです」
写真の中の俺は机に座り向かい合わせで誰かと話をしている。その相手は東だ。
写真に写り込んだ親友に俺はある点が繋がった。
「……もしかして、この写真に写った東を雅が見つけたのがことの始まりか?」
「凄い! 大正解!」
「あいつ、学校では俺と一緒にいることも多いからな。それと……自分で言うのもなんだが、今日はよく涼森のやつ来なかったな」
「はなた、今本州の祖母の家にいますから……なので……」
篠原は俺に寄り添って体を密着させスマホを斜め上にあげながら、こちらに向けた。
「はい先輩、笑ってー!」
「な、なんだよいきなり!」
彼女の突然の行動に戸惑いながらも、この流れからして、スマホのカメラで2ショットを撮るのだろうと容易に想像出来た為、言われたことに従ってカメラを見る。
「はい、チーズ!」
合図と共にシャッター音が鳴ると、彼女は撮った写真を確認して満足そうな表情を浮かべた。
「うんバッチリ! これをはなたに……」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、俺は彼女が全てを言い終える前に口を挟む。
「おい、もしかしてその写真を涼森に送るのか?」
「はい、はなたには今日先輩と会ってることまだ言ってないし、後々バレたらそれこそめんどくさいですし」
「だとしてもだな……わざわざ2人で撮った写真を送ることないだろ? どうせなら東達と一緒に4人で撮ったものを送った方がいいんじゃないか?」
「確かに先輩の言う通りですけど……こっちの方が面白そうじゃないですか?」
こいつ……以外に性悪女だ。
悪い顔をしながらは篠原はスマホを捜査して、涼森に写真を送る。
「これでよし、さてさて……はなたからどんな返事がくるかなぁ~?」
「俺は知らないぞ……」
呆れていると、篠原のスマホに1件の通知が来る。彼女は通知を確認するや
「ぷっ……ははは! はなたからもう返事がきましたよ? 見てくださいこれ!」
彼女スマホの画面をが俺に向けると、そこに映ってたのは涼森からのメッセージでこの短時間で入力したとは信じられないほどの長文。肝心の内容は……篠原を呪うような文面だ。
「だ、大丈夫かこれ? 『呪ってやる』とか『妬ましや』なんて書いてあるけど……」
「このままじゃ私、はなたに呪われちゃいますね。だから手土産に……先輩、ちょっと連絡先教えてください」
「え? あ、あぁ」
特に深く考えず、俺は篠原に連絡先を教えると彼女は再び自分のスマホを操作し、驚きの言葉を口にする。
「よし! はなたに先輩の連絡先を伝えました」
「はぁ!? 何勝手に俺の個人情報を他人に教えてるんだよ!」
「まぁまぁ、はなたなら知らない人じゃじゃないし~」
「そういう問題じゃねぇ!」
浅はかな判断をした俺自身も悪いが、勝手に個人情報を流出させたこいつもこいつだろう。
しかし、もう元には戻せない。深いため息をつくと再び篠原のスマホにメッセージが届いた。
「あっ早速返信来ましたよ! えっと……『我が親友よ。感謝永遠に』ですって」
「凄い手のひら返しだな……」
「まぁ私は先輩に恋するはなたの味方なので、多少強引でも2人をくっつけるために尽力しますよ。それに先輩は前に札幌で会った時に一緒にいた波里先輩と時波先輩とは付き合ってる訳では無いんですよね?」
「いや、確かにそう言う関係では……おい、今なんて言った?」
札幌で会った? 最近で札幌に行った記憶は、白花と杏の水着を新調しに行った時だが、しかし出会ったのは涼森のはず……あっ!
札幌で涼森に会った時のことを思い出すと、今日篠原を見た時から感じていた既視感の正体に繋がった。
「もしかしてあの時涼森と一緒にいたの、篠原だったのか!」
「あっ酷い! やっぱり忘れてたんですね! ……まぁそうだろうとは思ってたけど」
「あの時は涼森で手一杯だったんだよ……」
「でしょうね……話を戻しますが、先輩もし今好きな人がいなかったら、はなたのこと本気で考えてみてください。あの
そう言って篠原は俺に頭を下げた――好きな人か……どうなんだろう? 自分のことなのに今までそう言った感情を認識できたことはない。興味がない訳ではないのだが……。
「……すぐに返事は出せない。だけど、今も俺の涼森に対する気持ちはあいつに告白された時と変わらない」
友人の為に頭を下げた篠原に返事をすると、彼女はまた笑った。
「ふふ……先輩は優しいんですね。『すぐに返事は出せない』ってことは、まだ気持ち変わる可能性があるってことですよね?」
「……まぁ、そういうことだな」
「ちゃんと真剣に考えてくれてるんですね。ありがとうございます。もし『可能性すら無い』とでも言われたら、手を汚してでも次の手段を試すところでした」
その手を汚す次の手段が非常に気になるが、追求するのは辞めておこう……。
笑いながら、恐ろしいことを言う彼女に若干怯えていると、俺のスマホにメッセージが届く。相手は……東だ。
「東から連絡来たぞ。『待たせて悪い。ひと段落したから来てくれ』だってよ」
「そうなんですね。じゃあ戻りましょうか!」
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