第24話 3人で一緒の帰り道は想像以上でした
放課後を告げる鐘がなると、俺は教材や連絡事項が書かれたプリントを鞄に入れて席を立つ。すると、隣の席の白花が声をかけてきた。
「待って豊! 一緒に帰ろ!」
「お、おぉ……」
白花からの誘いを断るつもりはないが、できればもう少し小さな声で誘って欲しいものだ。じゃないと今のように、クラスメイトから様々な意味で注目されてしまう。もう手遅れのようだが……。
「あー! 私も一緒に帰りたーい!」
白花の声が聞こえたせいか、俺達と少し離れた場所にいた杏が、先程の白花よりも大きい声を教室に響かせながら、こちらへ向かってきた。
「……俺、玄関で待ってるわ……」
白花と杏という、容姿に優れた女性に挟まれた俺は周囲から感じる嫉妬と妬みがほとんどの視線から逃れるように、そそくさと教室を出る。
玄関に着き、靴を履き替えて外に出ると、生暖かい風が吹いていた。
――もうすぐ夏か。去年は特に何もせずに引き篭もっていたが、今年はあの2人がそうはさせてくれないだろうな……。
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられる。
「あっいたいた! 豊ー!」
「おまたせー!」
声のする方へ振り向くと、白花と杏が靴を履き替えて履き替えてこちらへ向かってきていた。
「もう……なんで豊だけ先に行っちゃうの?」
俺が先に外へ出たことが少し不満そうな白花が俺の左隣に来ると、杏は白花とは反対側、つまり俺の右隣の位置に着く。
「そうだよ! こんなか弱い女の子を置いていくなんて!」
「……お前達2人は、もっと自分が人気者だと自覚した方がいい」
「え、どういうこと?」
「豊はこういうところ
俺の言葉に白花は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるものの、杏には意味が伝わったようだが子供扱いをしてくる反応から、改めてくれる気は無いようだ。
そのまま左から白花、俺、杏という並びで帰路を進み始めたが、俺達3人の中でも白花は鼻歌を歌いながら、とても陽気に歩んでいる。
「……なんで白花はそんなに楽しそうなんだ?」
「だって前から豊と杏の学校の話を聞いてて羨ましかったんだもん! こうやって2人と一緒に帰ってみたかったんだ!」
「よかったね白花ちゃん! 初めての学校はどうだった?」
「楽しかった!」
杏の質問に即答した白花はスキップをしながら俺達よりも少し前に出て、こちらを振り返った。
「いっぱい勉強して、いろんな人と話して、そして豊と杏と一緒に帰って、源さんの美味しいご飯を食べる! こんな毎日が続くなんて幸せ!」
俺達にとっては当たり前の日常が、白花にとってはとても貴重なものなのだろう。彼女を見ていると、今こうして衣食住に困らず生きていられることをもっと感謝すべきだと強く再認識できる。
「白花ちゃんのピュアな心が染みる……」
隣の杏も俺と同じように白花に心を浄化されたようだ。
「早く明日にならないかな~」
早くも明日の学校の事で頭がいっぱいの白花は、体の向きを家の方角へと直して足を進める。
まさか、白花と一緒の学校に通い、共に下校することになるとは……。 つい1ヶ月前にこんなことが予想できただろうか?
……いや、少なくとも俺はできない。
「そうだ! 今日は2人を驚かせるために源さんに送ってもらったけど、明日からは一緒に学校行こうね!」
「3人で登校かー! 豊、いいよね?」
白花の提案に乗り気の杏が俺に確認をしてきたが、別に俺自身も2人と登下校を共にするのは嫌ではない。
しかし、ここからしばらくは目の前にいる2人の美少女と並んで歩くことを考えると、少し考える所があるのも事実だ。かといって、これでもし「嫌だ」となど答えようものなら、白花は悲しむだろう。
だから、俺の答えは決まっている。
「別にいいけど……」
そっけない返事をすると、白花はより嬉しそうな表情を見せる。
「約束だからね2人共! いつもの癖で置いていかないでよ?」
白花の言葉に俺は彼女を家で保護した日の翌日を思い出す。
「そういえば白花が家に来た次の日、俺達がこっそり学校行ったら大泣きしたよな」
俺が白花をからかうと、彼女はその白く透明な肌を真っ赤にした。
「あ、あれは! 『私を置いて2人がどっか行っちゃった』って思って、本当に悲しかったの!」
「ふふ、白花ちゃん顔真っ赤!」
杏に笑われたせいか、白花は両手で顔を隠す。指の先まで赤い。
「もう杏! 今日べっこう飴、あげないからね!」
「それはやだ! 白花ちゃんごめんなさーい!」
杏が白花に抱きついて謝罪している光景を見ながら、俺は彼女達の微笑ましいやり取りの内容に違和感を覚えた。
「……ん? ちょっと待て、べっこう飴?」
「「あっ!」」
俺の言葉にあからさまに「しまった!」とでも言うような表情を見せる2人に、俺の中で最近不可解だった点が繋がった。
「さてはお前達、俺が作った飴食ってたな?」
「た、食べてないよ! ね? 白花ちゃん」
「う、うん! もし食べてたとしても、私が食べたのは5個で杏が6個だよ!」
「白花ちゃん!?」
隠し通すのは不可能だと判断した白花は杏を身代わりに身の保全に走った。
「どおりで最近、作り置きしてた飴の減りが早いと思ったら……2人ともしばらくおやつ抜き!」
「そ、それはいやー!」
「豊、ごめんなさーい!」
本気で謝罪をする2人に返事をしないまま、家に着き玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
いつものように帰りを知らせると、じいちゃんがニヤリと笑いながら俺を迎えに来てくれた。
「おう、おかえり豊。どうだ驚いたろ?」
「それはそれは、凄く驚きましたよ……。杏なんて魚みたいに口をパクパクさせてたし」
「はっはっは! そりゃ、こそこそ隠した甲斐があったなぁ!」
じいちゃんが満足そうに笑っていると、俺の後ろから杏と白花が遅れて玄関に入ってくる。
「ただいま、源さん! 豊と杏をびっくりさせる作戦は大成功だったよ!」
「もう! 本当にびっくりしたよ!」
「おう、2人もおかえり。あぁ、そうだ。今お客が来てるんだが、豊と杏も知ってる奴だから挨拶していきなさい」
じいちゃんにお客とは……考古学関係だろうか?
もともと、その界隈では有名なじいちゃんだが、うちにお客が来るのは白花と杏を除けばかなり久しぶりだ。
「私達を知ってる人? 誰だろう……」
「……とにかく挨拶しに行くか」
じいちゃんと交友があれば、俺と杏を知っている者も多い。ここで挨拶をしないという無礼を働けば、じいちゃんの顔に泥を塗ることになる。
「行こう。杏」
「う、うん」
杏と共に客人が待つ、リビングへと向かう。
「失礼しま……あ、あなたは!」
「あーお帰りなさい。豊くん、杏ちゃん」
驚きのあまり、客人に対する挨拶すら忘れる俺達の反応に対して、客人は不思議そうな表情を浮かべる。
「あれー? どうしたんですか、2人共?」
しかし、自分がした質問の返答を待たずに、その男……由良善明は言葉を続けた。
「今度は覚えているよね?」
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