第12話 4人で晩御飯を食べました
「……たか!」
何だ?騒々しいな……。誰かが何か言ってる……?
「豊!」
俺を呼んでいるのか……誰が?
「豊! こんなところで寝てたら風邪ひくよ!」
聞き覚えのある声……この声は杏だ。
そうか俺、いつの間にかソファで寝てしまっていたのか。なんだか、変な夢を見ていた気がするけど内容までは覚えていない。
寝ぼけた脳が徐々に状況を把握していく。目の前には杏と白花が俺を見ているが、2人の服装がさっきとは違う。
そうだ……杏が白花を風呂に入れてくれていたんだっけ。
「あぁ……風呂終わったのか、ありがとう杏。問題は無かったか?」
「うーん。最初こそシャワーにびっくりしてたけど、すぐ慣れてくれたから大丈夫!」
「そうか……って杏も入ったのか?」
「最初はそんなつもりは無かったんだけど、白花ちゃんお風呂の入り方とか全くわからなさそうだったから、私が実践したら見様見真似で伝えやすいかなって思ったの! だから……ついでにお風呂頂いちゃいました!」
「それは別に良いけど……風呂の入り方もわからないなんて、ますますこいつの故郷が気になるな……」
俺と杏が話しているとキッチンからじいちゃんが出てきた。どうやら俺が寝ていた間に、夕飯の支度をしてくれていたらしい。
「飯にするぞー! 杏ちゃんも良かったら食べていくかい? 今日は唐揚げだ」
「本当!? 食べる食べる! 時庭家の唐揚げ大好き!」
「よし、じゃあ豊手伝ってくれ」
「はいよ」
杏と白花をリビングで待たせ、食卓に4人分の食器と料理を用意する。じいちゃんが作った料理はいつもより遥かに量が多く、きっと杏がいることも予定していたのだろう。
スムーズに用意を済ませ、杏と白花を食卓につかせると我が家の唐揚げが大好物な杏は子供のように目をキラキラさせる。
2人の後に俺、最後にじいちゃんが座り準備は整った白花を除いた俺達3人が手を合わせた。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」
じいちゃんの食前の挨拶に杏も元気よく続く。
「いただきます」
2人の後に俺も挨拶をし、箸を持ち料理を口に運ぶ。
「おいしー! 今日、豊の家来て良かった~!」
大好物の唐揚げ、頬張り幸せそうな表情をする杏の言葉に、まだまだ不十分なのはわかっていても、少しでもお礼ができたのではないかと安心する。
しかし、食事を進める俺達の中で白花だけは未だに料理に口をせず、俺達3人をきょろきょろと見回していた。
「白花、どうした?」
「まだ1口も食べてないね」
俺達3人が心配した目で見ていると、白花は持っていたフォークを置き手を合わせて、口を開く。
「い、いた……いただ、きます……」
そう言うと白花は再びフォークを手に持ち、今度は料理を口に運び始める。彼女の行動にじいちゃんはとても嬉しそうに言葉を返した。
「あぁ! 召し上がれ!」。
「凄いね白花ちゃん! 私達を見て真似したってことだよね!?」
「そうだろうな。白花は本当に頭の良い奴だな……」
白花の行動に驚き、興奮気味の杏の皿は唐揚げが山盛りになっているが、恐ろしい速さで皿の上から無くなっていく。
「相変わらず、よく食うな……」
「だって、美味しいんだもん! このサクサク感……どんな有名なお店よりも、この唐揚げが1番!」
「まぁ、作った身としては自分の作った料理をたくさん食べてもらえるのは嬉しいことだし、作り甲斐があるってもんよ。おかわりはまだまだあるから遠慮せずに食べてくれ」
「ありがと!」
華奢な体からは考えらないほど、大量の唐揚げを幸せそうに頬張っていく杏の隣で、白花も美味しそうに唐揚げを1個、また1個と口に運んでいる。
そんな白花の皿も杏に劣らない量の唐揚げが山盛りになっていた。
「白花! そこは真似しなくていいぞ!」
「おっ白花ちゃんやるね!」
まるで大食い競争のように凄いスピードでから揚げを頬張っていく2人。しかし、その表情は幸福に満ちていて見ているこちら側もなんだか暖かい気持ちになる。
杏が大量に食べるのを見越して、かなりの量を用意してあった料理は短時間で皿だけを残して無くなった。
これほどまで綺麗に食べてもらえると後片付けを非常に楽だ。
俺は食器を洗いにキッチンへ向かう。その間、杏と白花はリビングで共にテレビを見ている。
杏が白花と仲良くなれて良かった。
短い間とはいえ、杏への負担はかなり大きい。それに加え、もし白花と馬が合っていなければ杏が抱えていたであろう心労はただ食事と寝床を提供しているだけの俺達とは比べ物にならない。
もちろん、今現在でも杏にかなりの迷惑をかけているのは重々承知している。今度、もっと大きくてしっかりとした形でお礼を用意しよう。
そんなことを考えながら、食器を1枚、また1枚と洗っていると、後ろから声をかけられた。
「豊、私も手伝おうか?」
杏の声だ。
食器を洗う動作を続けながら、首だけを少し回し返事をする。
「なに言ってんだよ。俺1人で大丈夫だから杏は休んでろ」
これ以上、杏の負担は増やしたくない。長い付き合いだからわかるが、きっと俺が「手伝ってくれ」と頼んだとしたら彼女は嫌な顔1つせずに笑顔で引き受けてくれるだろう。
しかし、何度も言うように現時点での彼女への負担は大きいのだ。
今だって疲れているだろう、言葉が通じない異国の少女の生活をほとんど見てくれているのだから。
俺の返答に対する杏の答えは未だに聞こえないが黙々と食器を洗い続けていると、先程背後から聞こえた杏の声が今度は左の方から聞こえた。
「はい、こっちにちょうだい」
左を見ると、布巾を持った杏が手を差し出し俺から食器を受け取る準備をしている。
「休んでろって」
「いいから、いいから〜」
きっと、俺が断ったところで手伝うつもりだったのだろう……。この状態で断ったとしても無駄だと悟り、素直に食器を渡す。
「じゃあ……頼む」
「それでよろしい! あっそういえば明日明後日どっちか空いてる?」
「あーそういえば学校休みか。どっちも特に用事は無いな」
「じゃあ3人でお散歩でもしない? ほら、白花ちゃんこの辺のことわからないし、案内するついでにどこか行こうよ!」
「……まぁ、白花はずっと家の中ってのも気が引けるしな。じゃあ明日適当に回るか」
「やった!」
明日の予定が決まったと同時に最後の食器も洗い終わった。
「ありがとう。おかげで早く終わったよ」
「変な意地張らずに最初から2人でやってればもっと早く終わったのに」
「へいへい、そういえば白花は?」
「テレビ見てると思うよ……あれ? いない!」
杏と一緒にリビングに戻ると、白花の姿は無く室内にはじいちゃんがいた。
「白花ちゃんなら、またソファで寝てしまってたから部屋まで連れて行ったぞ」
「そっか! じゃあ、そろそろ私も帰ろうかな」
「今日もありがとう、杏ちゃん」
「気にしないで! じゃあ、また明日ね。お邪魔しました!」
そう言って家に帰った杏を見送った後、静まり返った我が家で俺も寝る支度をする。
ベッドに入って目を瞑る。
薄れゆく意識の中、先程見た内容すら思い出せない夢がどうしても頭から離れなかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます