青い桜餅

鈴音

青空の春でも青春

空は青く、風が吹き抜ける。草花が茂り、騒がしいほどに揺れる爽やかな日に、私は修羅の如き女に問い詰められていた。

額に青筋を走らせ、片手にどこで拵えたのか1本の木刀が握られている。どうしてこうなったかを、少し回想しよう。

といっても、事は単純だ。彼女は私の恋人で、昨日が誕生日。私はそれを承知の上ですっぽかしたのだ。当然、彼女がこのような形相で睨んでも何もおかしくはない。

といっても、こちらにも事情はある。昨日は急な仕事が入ったのだ。込み入った事情のある個人業故詳細は語れないが、その事は当然伝えた。仔細抜かりなく、プレゼントも事前に渡し、今日二人で美味しいものでも食べようと約束もした。

にもかかわらず、どうしてこう恐ろしい形相なのか。頭を捻っていくつか候補をあげる。

一つ、私の私服がダサいことに腹を立てた説。自分でも自覚しているが、この服は仕事着なのだ。常にこの格好でないと緊急に対応出来ない。

では、もう一つの案だ。私は猫派で、彼女は犬派。猫とじゃれる事を浮気と呼ぶ程に彼女は猫を毛嫌いする。猫カフェ等に行く際も極力ばれないように万全を期して行くので、滅多には気取られないはずだ。今日も、予定は夜だからと猫とにゃんにゃんころりとじゃれてはいたが、着替えもしたしシャワーも浴びたはず。では、これも候補ではないのか。

最後。我々は今デートをしている。昼間から幸せな事だと知人に冷やかされたが、こんなに天気のいい日に外に出ないとは人生の浪費にも程があるというもの。ということで彼女を連れて何も無い平原にやってきて、弁当を広げているのだが、それだろうか。

季節は春、空は見事な青。これこそ青春だと言って冗談交じりに作った全ての食材が青い弁当がそれほどに気に入らなかったのか…私は少し悲しい思いで、彼女に問い返した。彼女は、こう告げた。

「桜餅を入れろ!」

どうやらお弁当が気に入らなかったようだ。なんて可愛い彼女なのだろう。私は真っ青に染まった桜餅を別の箱から取り出し、彼女に差し上げた。

そこからの記憶は無い。気づけば私は全裸で市中引き回しの刑にあっていた。全身が青に塗られて。なんてことだ。私は妖怪退治の専門家なのにこれでは私が妖怪のようではないか。

悲しい気持ちで彼女に謝罪し、声高に宣言をした。

「次の桜餅は見事にピンクにしてみせる!だから、許しておくれ!!」

泣きながら懇願する私を見て、彼女もわっと泣き出し、全てを許してくれた。

帰り道、真っ青な全裸男と、それを引き摺る四足歩行で足が八本ある妖怪がいるなんて噂を聞いたが、どこの誰だろうか?

とりあえずは、今日も良い日であったと、口笛を吹きながら帰路についたのであった。

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青い桜餅 鈴音 @mesolem

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