百合香side その①

 百合香side その①





 拓也くんと別れを告げたあと、私は自転車を漕いで自宅へと帰っていたわ。


「ちょ、ちょっと……大胆に行きすぎたかしら……」


 今日一日でかなり拓也くんにアプローチをかけたと思ってる。でも、あの『超絶鈍感男』にはあれだけやらなきゃ伝わらないと確信してる。

 もしかしたら、これでも伝わってない可能性すらあるわね……


「それに、もしかしたら『敵』になるかも知れない新入生もいるし……油断は出来ないわ……」


 正直な話。一年かけて拓也くんの周りにうろつく女の子を蹴散らしてきた。

 ようやく彼の隣には私だけが居る。そんな状態に持って行けたのに。

 まさか入学式早々に新入生が彼に近寄ってくるとは考えてなかったわ。


 とりあえず『彼は貴女には渡さないわよ』という意思を込めた視線は送っておいた。

 私の視線から逃げなかったところを見ると、それなりには見所はある。

 敵になるなら容赦はしないけど、ただの先輩後輩の間柄で収まるなら気にはしないわ。


 そして、こんなことを考えながら自転車を走らせていると、自宅へと帰ってきたわ。


 時刻は夕方。もしかしたらお父さんも帰って来ている時間ね。


 特に門限が決められているわけでは無いけど、あまり遅くに帰ると心配をかけてしまうから、このくらいの時間には帰って来れるようにはしてる。


 自転車を家の駐輪スペースに停めたあと、私はお財布をカバンから取りだして中から家の鍵を出す。

 玄関の扉の鍵を開けて中に入ると、お父さんの革靴があった。

 仕事を終えて帰ってきているようね。


「ただいま」


 私はそう言って革靴を脱いで家に上がると、奥からお母さんがやって来たわ。


「おかえりなさい、百合香」

「ただいま、お母さん」


「お父さんももう帰ってきてるから、手洗いとうがいを済ませたら居間まで来てちょうだい」

「うん。分かった」


 お母さんの言葉に首を縦に振り、私は洗面所へと向かったわ。

 そこで習慣になってる手洗いとうがいを済ませたあと、私は一度二階にある自室に向かい、カバンを置いてから一階の居間へと向かったわ。


 そして、扉を開いて中を見ると椅子に座ってテレビを見ているとお父さんと、台所で夕飯の支度をしてるお母さんの姿があったわ。

 玄関の方まで匂いが来てたから、今日の夕飯は私が好きなカレーね。


「ただいま、お父さん」

「おかえり、百合香」


 優しい表情で笑いながらお父さんは私を迎えてくれた。

 お父さんが怒ったところはほとんど見たことがない。

 そうね……私が小さい頃に一度だけ。お母さんにちょっかいをかけてた男の人にかなり怖い表情で詰め寄ってたのを覚えているくらいかしらね。


 お父さんもお母さんもお互いが今でも大好き。ふふふ。両親の仲は羨ましいくらいに良好よね。


「今日から新学年だったね。新しいクラスには馴染めそうかい?」

「心配はいらないわ。一年生の頃からの友人も少なくなかったし、今年も良好な関係を作れそうね」


 お父さんの対面の椅子に腰を下ろして、私はそう答えたわ。


「ふふふ。拓也くんとは一緒のクラスになれたのかしら?」


 夕飯作りを中断して、冷蔵庫から冷えた麦茶をコップに注いで持って来てくれたお母さんが、私にそう言って微笑みかけてくれた。


「そうね。彼とも一緒のクラスだったわ。それに去年と同じ隣の席ね。まぁ今年こそは拓也くんから学年首席の座を奪ってやるわよ」


 私はそう言うと、お母さんが持って来てくれた麦茶をひと口含んだわ。


「ふふふ。百合香が彼から奪いたいのは『学年一位の座』だけじゃないでしょ?」

「……んぅ!!??」


 イタズラっぽく笑いながらそう言うお母さん。

 私は思わず口に含んだ麦茶をお父さんに吹きかけるところだったわ。


「お、お母さん!!??」


 私が思わず声を荒らげたけど、お母さんは何処吹く風。

 微笑みながら台所へと戻って行ったわ。


「そうだね。何度か山瀬くんとは話したことがあるけど、とても礼儀正しい良い子だったからね」

「お、お父さんまで何言ってるのよ……」


 祐希くんとの勉強とは別に、私と拓也くんだけで勉強をすることがあったわ。その時に彼がお父さんと楽しげに話しているのは見ていたわね。


「あぁいう子が息子で欲しかったなぁとは思うかな」


 一人娘の私。両親二人に大切に育てられているとわかってるわ。でも、お父さんが『男の子が欲しいと思ってた時はあるんだよね』とか話してたからね。

 ……夫婦仲を考えれば、もしかしたら弟が出来る可能性もあるわね。


「お父さん。百合香が拓也くんと結婚すれば息子になるわよ?」


 少しだけ遠い目をしていたお父さんに、お母さんがおつまみの枝豆を持ってきながらとんでもないことを言ってきたわ。

 お父さんさんはそれを摘みながら、お母さんの言葉に同意を示したわ。


「それは良いアイデアだね。百合香には是非とも頑張って貰おうかな」

「はぁ……もう着いていけないわ……夕飯が出来るまで私は自室で待ってるわよ」


 私はそう捨て台詞を残したあと、居間を後にして自室へと戻ったわ。まぁ、拓也くんと付き合ったあとのことを考えるなら、二人の反応はとても喜ぶべきことよね。


 そして、自室に戻った私は親友の涼香ちゃんにメッセージを送ったわ。


『今日のことで少し話がしたいの。電話をしても平気かしら?』


 私がそうメッセージを送ると、すぐに既読が着いて

『はい。私も百合香さんと話をしたいと思ってました。今なら平気ですよ』

 と返事が来たわ。


 それを見た私は、涼香ちゃんに電話をかけたわ。

 するとすぐに彼女がそれに出てくれたわね。


「もしもし、涼香ちゃん。いきなり電話してごめんなさいね」

『ふふふ。気にしなくても平気ですよ、百合香さん』


 優しい言葉でそう言ったあと、涼香ちゃんは言葉を続けたわ。


『私に電話をしてきたのは山瀬さんとの件ですよね?』

「そうね。それで涼香ちゃんから見てどっだったかしら?」

『ふふふ。それは正直に答えても良いのですか?』

「まぁ……忌憚のない意見が欲しいわね」


 私がそう言うと、涼香ちゃんは小さく咳払いをした後に、私に言ってきたわ。


『百合香さんや祐希くんの言うように『とてつもない鈍感野郎』ですよね。ふふふ。あれだけ百合香さんが熱い視線を向けてるのに気が付いてませんでしたからね』

「……そうなのよ。拓也くん。全く気が付かないのよね」


 ため息混じりでそう答えると、涼香ちゃんからは少しだけ意外な答えが帰って来たわ。


『でも、山瀬さんも百合香さんのことを意識して見ているのはわかりましたよ?ふふふ。私と合流する前に何かありましたか?』

「……心当たりならあるわね」


 私が拓也くんの彼女になってあげようか?と聞いたのが、彼には少しだけでも刺さってたのかしら?


『脈無しなんてとんでもない。お似合いの二人に私は思えましたよ?』

「そう言ってくれると嬉しいわね」


 私がそう答えると、涼香ちゃんは得意の『分析能力』で拓也くんの中身の話をしてきたわ。


『それに、とても誠実で優しい方だと言うのが見て取れました。それでいてしっかりと相手に意見を言える強さも持っていますね。とても素敵な男性だと思いますよ。まぁ祐希くんには負けますけど?』

「何言ってるのよ涼香ちゃん。祐希くんより拓也くんの方が素敵よ」

『ふふふ。好きな人自慢はこのくらいにしておきますか』

「あはは。そうね、でも涼香ちゃんの言う通りだと思ってるわよ」

『とても良い方を好きになられたと思います。ただ、ライバルも多そうですね』

「それは一年かけて蹴散らしてきたわ。でも少しだけ油断してたわね」


 私はそう言うと、あの可愛すぎる一年生の姿を思い浮かべたわ。


「新入生の女の子と知り合ったみたいなのよ。めちゃくちゃ可愛い女の子だったわ。まぁまだ敵では無いと思ってる。でも、そうなる可能性は高いと踏んでるわ」

『なるほど。年下の女の子という訳ですね。同じ部活の先輩後輩になったら注意が必要かと思います』

「確かにそうね。そうなったら気を付けないとね」


 そして、私が時計を確認すると通話をしてからかなりの時間が経ってることがわかったわ。

 そろそろ夕飯も出来た頃かしら。


 そう思っていると、電話口の涼香ちゃんから


『お母さんから夕飯が出来たと言われました。すみませんが、そろそろ通話を終えなければなりませんね』


 と言われたわ。


「ありがとう涼香ちゃん。とてもためになる話が出来て良かったわ」

『ふふふ。今度は四人でWデートとかもしましょうね?それでは失礼します』

「それはとても楽しみだわ。じゃあね涼香ちゃん」


 そう言って私は彼女との通話を終わりにしたわ。


 すると、一階のお母さんから『夕飯が出来たからおいで』とメッセージが来たわ。

 私は『今行くわ』とメッセージを入れたあと、スマホを机の上に置いたわ。


 その時、スマホがメッセージを受信した。と知らせてきたわ。


「あれ……この受信音は……拓也くん?」


 拓也くんだけは違う受信音にしているので、彼からの電話やメッセージは受信した瞬間に分かるようにしてる。


 私は、スマホを手に取り拓也くんからのメッセージを確認したわ。


「う、嘘でしょ……」


 そこには彼から『明日は一緒に登校しないか?』というメッセージが届いていたわ。

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非モテの俺が可愛い過ぎる見た目の後輩に毎日愛の告白をされている。~愛に性別は関係ないですよ!!先輩好きです!!~ 味のないお茶 @ajinonaiotya

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