第四話~SHRを終えて昼ご飯を食べに向かう途中、後輩と再会した~

 第四話




 SHRを終えたあと、俺たち三人は自転車が置いてある駐輪場へと向かっていた。


 俺もそうだが、祐希と百合香も自転車での通学だった。

 だけど、家から学校まで自転車で登校するのが俺と百合香。祐希は駅までは自転車で、その後は電車で帰るような感じだな。


「さっきの話だと田中うどんに行こうって話だったけど、それでいいか?」

「あぁ、俺は構わないよ。赤キック定食を食べたい気分だしな」

「私も構わないわよ。と言うかもう田中うどんの口になってるわよ」


 俺が祐希と百合香にそう問いかけると、二人からは了承の声で返してくれた。


「俺も朝ご飯食ってねぇから腹ぺこだよ。じゃあ行こうか」


 駐輪場に停めてあった自転車の鍵を外し、俺たちは校門へと自転車を走らせる。


 すると、俺たちの目の前に亜麻色の髪の毛の女の子の姿が見えた。


「あれ……彼女って拓也が朝二人乗りしてきた子じゃないか?」

「そうだな。入学式とその後のSHRが終わったあとなのかもしれないな」

「ふーん……彼女が拓也くんに色目を使ってた子ね……」


 い、色目って……


 少しだけ不機嫌そうな百合香の言葉に、軽く苦笑いを浮かべながら、俺たちは彼女の隣を通り過ぎる。

 そして、その時に俺は少しだけ気になっていたことを聞いてみることにした。


「よう、後輩。朝ぶりだな」

「あ、先輩。またお会いしましたね!!」


 俺の姿を見た後輩は、ぱぁと表情を明るくして言葉を返した。


「びっくりするくらい可愛い子だね……」

「なるほどね……この子が私の敵なわけね……」


 後輩の隣に自転車を停めてから、俺は朝のことを聞いてみることにした。


「どうだ。朝は遅刻しないで済んだのか?」

「はい。先輩のお陰で初日からてへぺろってしなくて済みました!!」


 てへぺろと舌を出しながら、後輩はいたずらっぽく笑っていた。


 ……なんて言うか、めちゃくちゃ可愛いな。


「そうか。それなら良かったよ」

「先輩はこれからどちらに行かれるんですか?」


 軽く小首を傾げる後輩に、俺は行先を告げる。


「駅前の田中うどんだな。後ろの二人と一緒に昼ご飯を食べに行くんだよ。まぁその後はゲーセンで遊ぶ感じかな」

「なるほどそうでしたか!!えへへ。先輩一人ならまた駅まで乗せてもらいたい所でしたね!!」

「なかなか厚かましいことを考えてたんだな……」

「可愛い後輩のお願いじゃないですか!!ですが我慢します!!」


 後輩は後ろの二人に軽く視線を向けたあと、ニコリと笑いながら頭を下げる。


「では先輩。さようなら!!朝はありがとうごさいました!!」

「おう、じゃあな。後輩」


 俺は後輩に別れを告げてから、自転車を再び走らせた。

 そして、俺の後ろを着いてくるようにして二人がやってきた。


 しばらく自転車を走らせていると、祐希が俺の事をからかうように話しかけてきた。


「あはは。随分と可愛い子と知り合ったんだね、拓也は」

「そうだな。そこらのアイドルなんか裸足で逃げ出しそうな見た目だよな」

「そうね。びっくりするほど可愛かったわね。特に笑顔なんか反則級だったわよ」


 そして、そんな話をしながら自転車を走らせていると、駅前まへとたどり着いた。


 黄色いやじろべぇの看板が目印の田中うどんの駐輪場に自転車を停めてから、俺たちは中に入る。


 安くて、早くて、美味くて、量もある。

 トラックの運転手や家族連れに人気のあるチェーン店だ。


 四人用のテーブルに陣を取る俺たち四人。

 俺の対面には祐希が座り、隣には百合香が座った。

 そして、俺たちのテーブルに店員さんが水を持ってきやって来た。


「お冷です。メニューが決まったらそちらのボタンで呼んでください」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺は店員さんに水のお礼を言ったあと、コップに手に取って冷えた水を一口飲んだ。


「あぁ……生き返るな」


 思わず口から出てきた声がかなり低かった。


「おっさん臭いわよ拓也くん」

「あはは。これでお手拭きで顔を拭いてたら完璧におっさんだね」


 暖かいお手拭きで手を拭いてる二人に、俺もお手拭きで手を拭いて、軽く笑いながら言葉を返す。


「ははは。そんなことはしないよ。じゃあメニューを決めてこうか」


 俺はそう言ってテーブルの上にメニュー表を開く。


「俺はキック定食にご飯大盛りで。そうだな、腹減ってるからラーメンもつけようかな」

「俺は赤キック定食のご飯大盛りだな。てか拓也がラーメン頼むなら俺も頼むかな。絶対食いたくなるし」

「貴方たち良く食べるわね……。私はかき揚げ丼だけで良いわよ」


「百合香はもっと食べないと育たな……いぃ!!!???」

「……何、祐希くん。何が育ってないって言うの??」


 百合香の身長の事を揶揄しようとしていた祐希は、足を踏まれたのか苦悶の表情を浮かべていた。

 馬鹿だな。それは禁句だってわかってるだろ?


「何言ってんだよ、祐希。百合香は豊かに育ってる……うぅ!!!???」

「ねぇ……どこ見て何言ってんのよ拓也くん??」


 百合香のおっぱいに軽く視線を向けた俺の足も、百合香に思いっきり踏みつけられた。


「はぁ……馬鹿なことしてないで店員さんを呼ぶわよ」

「はい、そうですね。じゃあチャイムを鳴らすわ」


 俺はそう言って、店員さんを呼ぶチャイムを鳴らした。


「お待たせした。ご注文をどうぞ」


 すぐにこちらへやってきた店員さんに、俺たちは注文をした。

 そして伝票に記載して店員さんが厨房へと戻った所で、百合香が席を立った。


「ちょっとお化粧を直してくるわね」

「はいよ」

「おっけー」


 そう言って席を立った百合香を見送ったところで、祐希が俺に話をしてきた。


「まぁ、こんなところで話をするのもなんだけどさ。拓也には報告しておこうと思ったことがあるんだよ」

「え?何だよ、改まって」


 俺が水を口にしながらそう問いかけると、祐希は少しだけ顔を赤くしながら言ってきた。


「俺、彼女が出来たんだ」

「んぅ!!??」


 あぶねぇ!!水吹き出すところだったぞ!!


 危うく友人に口に含んだ水をぶっかけそうになりながらも、こらえた俺はそれを飲み込んだ後に祐希に聞いた。


「そうか。彼女が出来たのか……それは、あれか?百合香か」


 この二人は仲が良かったからな。同じ野球部で、しかもエースとマネージャーだからな。どこのラブコメ漫画だよって関係性だよな。

 教室では百合香にからかわれたけど、本命はこっちだったのかな?なんて思っていると、祐希は呆れたような表情で俺に言葉を返した。


「はぁ?百合香じゃねぇよ。てかあいつが好きなのは……いや、これを言ったらマジで殺されるな……」

「……え?どうしたんだ。てか、百合香じゃねぇのかよ」


「ちげぇよ。その……誠桜せいおう高校の野球部のマネージャーだよ」

「……おいおい。誠桜高校って去年の地区予選決勝の高校じゃねぇか」


 俺たちの高校の野球部のライバル校とも言えるのが、誠桜高校野球部だ。ここ数年はうちか、誠桜かのどちらかが甲子園に行く。と言うような状況だ。


「去年。うちの高校が勝って甲子園に行っただろ?その時に連絡先を交換しててな」

「……それは、向こうとしては大丈夫なのか?」


「まぁ情報を流すってことはお互いにしてないからな。そもそも他愛のない話とか、そういうのをしてきたから」

「そうか……まぁ、おめでとうでいいのか?」


「そうだな。こうして話したのは拓也で二人目だよ」

「一人目は百合香か?」


「そうそう。てか、俺の彼女と百合香が仲良いみたいでな。マネージャー同士の繋がりもあったみたいだよ」

「ライバル校とは言っても、フレンドリーな間柄だったんだな」

「まぁな。練習試合も良くするしな。お互いに切磋琢磨しあってるってのがしっくり来ると思うよ」


 祐希はそこまで話すと、テーブルの上の水を一口飲んで言葉を続けた。


「それでな。この後ゲーセンで遊ぶって話をしたら、俺の彼女……涼香りょうかが来るって話をしてるんだ」

「ははは。なるほど。つまり俺はお前のリア充っぷりを見せつけられるわけだな」


「あはは。まぁいきなり拓也に合わせるのもアレだと思ったからこうして話をしたんだよ」

「気にすんなよ。まぁこっちは百合香と遊んでるからお前は彼女と宜しくやってろよ」

「そうだな。まぁ百合香もその方が喜ぶだろうしな」


 そして、そんな話をしてると化粧を直していた百合香が戻って来た。


「お待たせ。どうやら祐希くんから彼女のことは聞いたみたいね」

「聞いたよ。全く、先を越された気分だよ」


 百合香の言葉に俺がそう答えると、彼女はイタズラっぽく笑いながら俺に言う。


「教室で言った言葉は本気だからね?」

「……え?」

「拓也くんが望むならって話しよ」


 そ、それって……


「お待たせしました。ご注文の料理になります」

「……あ、すみません。ありがとうございます」


 俺が百合香の言葉の真意について考えようとしたところで、頼んでいた料理がやってきた。


 するとすぐに、俺たちの机の上にはたくさんの料理が並んだ。


「じゃあ、冷めないうちに食べましょうか」

「賛成だ。拓也じゃないけど俺も腹が減ってるからな」

「そ、そうだな。じゃあ食べるか……」


 こうして、俺たちは「いただきます」と声を揃えたあとに、昼ご飯に舌鼓を打った。


 だが、俺は百合香に言われた言葉が頭の中を離れなかった。

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