第三話~三人で放課後の予定を決めたあとクラスメイトに自己紹介をしていった~

 第三話




 体育館で始業式を終えたあと、俺たちは再び二年一組の教室へと戻って来ていた。


 この後は自己紹介をして、諸連絡を受けたら解散だな。


 今日は半日で終わるからどっかで昼ご飯を食べてから、ゲーセンかなんかで遊びたいと思うな。


「なぁ、百合香に祐希。新学期の一日目から部活動があるなんてのは無いだろ?」


 俺の席のところに来ていた祐希と隣の席の百合香に俺はそう問いかける。


「そうだな。流石に今日は野球部は休みだよ」

「そうね。部活動が始まるのは明日からよ」

「演劇部も明日からなんだけど……俺一人しかいないからな。明日は勧誘のビラ配りをしようと思ってる」


「あはは。三年生が卒業して拓也一人になっちゃったからな」

「今年で廃部になる。なんてことは無いけど、部員集めは死活問題よね」

「そうなんだよ。だからとりあえず本気で勧誘はやらないと……ってその話じゃないんだよ」


「あはは。わかってるよ拓也。お昼ご飯を三人でどっかで食べた後に遊びに行かないか?って誘いだろ」

「そうそう。百合香はどうかな?」

「私も平気よ。と言うか拓也くんが言わなかったら私から言ってたところよ」


 二人の同意が得られたことに少しだけ安堵を覚える俺。

 そうだな、昼は駅前の田中うどんにしようかな。

 キック定食を食べたい気分なんだよな。


「朝を抜いてるからしっかり食べたいんだよな。田中うどんとかどう?」

「悪くないな。赤キック定食にしようかな、俺は」

「私はかき揚げ丼にしようかしらね。……ってこんな話してたら何だか今からお腹がすいてきちゃうわよ」

「あはは……ごめんごめん」


 こうして、この後の予定を決めたところで教室の扉がガラリと開いた。


「よし、お前ら席に戻れ。これから朝話したように、自己紹介の時間になるからな」


 長瀬先生がそう言いながら教壇に立った。

 そして、俺たちが全員席に着いたところで話を始めた。


「よし。じゃあ一番前の席の一ノ瀬から順に自己紹介をしてもらうからな」


 良かった。今年や祐希からなんだな。

 去年の根岸先生は『前からではつまらんな。後ろの席から自己紹介を始めなさい』とか言ってきたからな。

 あの時は準備をしてなくて軽く言うことを噛んでしまったのを覚えてる……


 そして、長瀬先生から指名を受けた祐希が椅子から立ち上がり、自己紹介を始めた。


「さっきも軽く話をしたと思うけど、野球部に所属している一ノ瀬祐希です。一応背番号は1番を貰ってるからチームのエース投手ピッチャーです」


 そう。祐希は三年生が引退した後、二年生を押し退けてエースに君臨している。

 まぁ恵まれた体格から繰り出される速球は150kmを軽く超え、スライダーにスプリットと変化球も一級品。

 コントロールがアバウトだけど、そこら辺の高校生じゃバットにかすりもしない。

 プロのスカウトも何人も来てるから、卒業したらプロの世界に進むんだろうな。と思ってる。


「勉強がかなり苦手だから、テストではクラスの平均点を下げてしまうけど、その分体育祭では活躍しようと思ってるからよろしくお願いします!!」


 パチパチパチ……


 祐希の自己紹介に俺が最初に拍手をすると、クラスメイトもそれに続いてくれた。


「それじゃあ続いて……」


 長瀬先生はそう言って祐希の後ろの席の生徒を指名した。


 こうして自己紹介は進んで行き、隣の席の百合香の番になった。


「それじゃあ続いて、幸村だな」

「はい」


 長瀬先生の声を聞いたあと、百合香は椅子から立ち上がり自己紹介を始めた。


「幸村百合香です。野球部ではマネージャーをしているわ。テストが苦手な祐希くんの勉強を見てあげたり、去年は一年間学級委員をしていたから、人の面倒を見るのが好きなのよ」

「その節はお世話になりました!!」


 祐希がそう言って百合香に頭を下げると、クラスには軽く笑いが広がった。

 ほんとこの二人は「良いコンビ」だと思ってるわ。


「『クラスの雑用係』と言われてる学級委員に立候補をする人がいなければ、今年もやろうと思ってるから安心して欲しいわね。あと今年こそはテストの順位で学年一位になるつもりよ」


 百合香はそう言うと、鋭い目付きで俺を見つめてきていた。

 そう。百合香は秀才の努力家だから多忙を極めている野球部のマネージャーに加えて学級委員をやっていても、テストでは学年で二番目の順位だった。


「身体を動かすのが少し苦手だから体育祭では足を引っ張ってしまうかもしれないけど、それ以外のことを頑張るわ。よろしくお願いします」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


 そう言って頭を下げた百合香に、男子生徒を中心にたくさんの拍手が巻き起こった。

 お前らわかるぞ。百合香がお辞儀をした際に揺れたおっぱいに目がいってるだろ。


 さて、最後は俺の自己紹介だな。


「それじゃあ最後は山瀬だな」

「はい!!」


 俺は演劇部らしく腹式呼吸を使い、大きな声で返事をして椅子から立ち上がった。


「山瀬拓也です。伝統ある演劇部に所属しています!!ですが、俺が所属する演劇部は三年生が引退したあとは俺一人だけになってしまい、廃部の危機です!!」


 俺がそう言葉を張り上げると、クラスメイトに笑いが広がった。良かった。掴みはOKだな。


「とりあえず明日のビラ配りは本気でやろうと思ってます。それと去年は自分も学級委員をやっていました。隣の席の幸村さんと……」

「百合香よ。幸村さんなんて他人行儀な呼び方はしないで欲しいわね」


 俺の言葉を遮るように、隣の席の百合香が視線を強く向けてきた。


「ははは。えと……隣の席の百合香とは一年間、学級委員として一緒にやってきました。そうだな、勝手がわかってるから今年も学級委員をやろうかとも思ってる」


 俺がそう言うと、『百合香と一緒に学級委員をする』というポジションを狙っていたと思われる男子生徒がこっちを睨んでいた。

 あはは。こういう百合香目当ての男子生徒からヘイトが集まるのも去年と余り変わらないな……


「あと、勉強も苦手じゃないから授業でわからないこととかあったらどんどん聞いて欲しいかな。去年は『山瀬塾』ってやつをテスト前に開いたりしてたから、他人に物を教えるのは得意だと思ってる」

『その節はお世話になりました!!!!』


 祐希を初めとした去年一緒のクラスだった男子生徒や女子生徒から、そんな声が上がってきた。


「……今年こそは拓也くんから一位の座を奪ってやるんだから」


 俺の方を見つめながら、百合香がそう呟いていた。


 そう。去年のテストの順位は俺が一位。百合香が二位。

 という結果だった。


「演劇部だけど、かなりハードなトレーニングを課せられてきたから、身体を動かすことも得意です。あとは……今年の目標は『彼女を作ること』です!!」


 さぁ!!ここで笑いを取ろう!!


 そんな意図で俺がそう言うと、百合香を初めとした女子生徒数人がかなり驚いたような目でこちらを見つめてきた。


 対照的に男子生徒は祐希を中心にケラケラと笑っていた。


「……あ、あれ?ここ笑うところだよ??」


 俺が隣の百合香にそう言うと、彼女は少しだけ不機嫌そうに言葉を返した。


「…………そう。拓也くんは彼女が欲しいのね」

「あ、あの……ウケ狙いの冗談なんだけど……」

「ふーん……そう。良いわよ。拓也くんがそのつもりなら私も遠慮しないから」

「え、えと……百合香さん?」


 少しだけ不穏な雰囲気の百合香から視線を逸らし、俺は自己紹介を締めに入った。


「えと、こんな俺ですけど、クラスのムードメーカーとして頑張って行こうと思います!!一年間よろしくお願いします!!」



 俺がそう言って頭を下げると、祐希を中心にパチパチパチと拍手が起こった。


 良かった……とりあえずこれで一安心だな。


 ホッと一息をついてから椅子に座ると、隣の席の百合香が袖を引っ張ってきた。


「何?百合香」

「拓也くんの彼女に私がなってあげようか?」

「……え!!??」


 ニコリと笑いながらそう言う百合香に、俺は思わず驚きの声を上げる。


「ふふふ。驚いた?」

「…………何だよ、冗談かよ」


 イタズラっぽい笑いに変わった百合香の表情を見て、俺はからかわれたのだと理解した。

 少しだけ不機嫌さを滲ませながらそう言葉を返すと、百合香は真剣な目で言ってきた。


「冗談じゃないよ。って言ったら拓也くんはどうする?」

「………………え?」

「拓也くんが望むならどっちにしてもいいからね?」


 百合香はそう言うと、俺から視線を逸らして教壇の方へと顔を向けた。


「………………ど、どういう意味なんだよ」


 突然の百合香の言葉に頭がいっぱいになる俺。


 そして、全員の自己紹介が終わったあとの長瀬先生の諸連絡が、全く耳に入ることなく本日最後のSHRは終わりを告げた。


 この時、俺が少しでも隣の百合香を見ていれば彼女の真意に気が付けたんだと思う。


 百合香の顔が真っ赤に染まっているのを見ていれば……

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