第二話~一年の頃からの友人二人に、今朝のことを話すことになった~

 第二話




 可愛すぎる見た目の後輩との一幕を終え、俺は自分のクラスを確認しに向かう。


 そして、一年の時と同じように『一組』である事がわかった。

 軽く見た名前の中には、去年からの友人の名前も幾つかあり、新学期早々友達に苦労する。ということにならずに済んだことに安堵した。



 革靴を下駄箱に収めたあと、カバンの中から去年から使っている上履きを取り出す。

 サイズは28.5cm。

 多少大きめに用意した上履きだったが、去年一年でピッタリになっていた。

 去年の身体測定では身長が180cmを超えていた。


 流石にもう大きくなることは無いとは思うんだよな。


 そんなことを考えながら上履きに履き替える。


 校舎の中を進み、階段を上って二階へ行く。

 そして目的地の二年一組の教室へとたどり着いた。



『二年一組』



 と書かれた教室札を見て、間違いがないことを確認する。

 教室の扉をガラリと開けて中に入った。


「おはよう」


 そう言って周りを見ると、二人の友達がこっちを向いて笑って手を振っていた。


「おはよう拓也、遅刻ギリギリじゃねぇか」

「目覚まし時計のアラームが仕事しなかったんだよ。お陰で朝ご飯を食べてないからな。まぁ今日は半日だろうから我慢するよ」

「一人暮らしだとそれが危険だよな。まぁ初日早々に遅刻なんてしてたら悪目立ちも良いとこだからな」


 そう言って笑っているのが男友達の一ノ瀬祐希いちのせゆうき

 野球部に所属している祐希は、俺よりも身長が高い190cm超えの大型投手だ。

 体育の時とか身長順で並ぶことが多かった俺たち二人は、その時によく話をして仲良くなった。


 漫画やアニメと言った『オタク趣味』に理解を示してくれたのが一番だと思うけどな。


「ねぇねぇ拓也くん!!めちゃくちゃ可愛い女の子と一緒に登校してたわよね!!あの娘は一体誰なのよ!!」

「何だ、百合香ゆりか。見てたのか?」

「ちょうどここの窓から校門の辺りは見えるんだよね。……てか、そんなのはどうでもいいの!!」


 バンバンと机を叩きながら俺に声を荒らげるのは、女友達の幸村百合香ゆきむらゆりかだ。


 野球部のマネージャーをしてる彼女は、祐希と一緒に居る時に俺たち二人のところにやって来て良く話すようになった。

 あまり勉強が得意でない祐希の面倒を俺と二人で見てやることも少なくなかったな。

 まぁ何だかんだ言って、一年の時はこの三人組で過ごすことが多かったと思ってる。


 さて、目尻を釣り上げてる百合香に今朝のことを話していくかな。

 どうやら祐希も俺と後輩が一緒に登校してきたのは見えていたようで、興味深そうな視線をこちらに向けていた。


「俺が通学路を自転車を漕いでたら、あの子が遅刻しそうな感じでのんびり歩いてたからな。「このままだと遅刻するぞ」って声を掛けたら乗せてくれって言われたから乗せてきた感じだな」

「ははは。拓也の好きなラブコメラノベみたいな展開だな」

「それは俺も否定しないな」


「新入生は盲点だったわね……油断してたわ。私が隣にいる状況で、拓也くんに手を出す奴なんて居るわけないと高を括ってたのは不味かったわね……」


 祐希と笑いあっていると、百合香が軽く視線を外しながら何かを呟いていた。


 そんな話をしていると、どうやらSHRの時間が来たようだった。

 俺たちの会話を遮るように、チャイムが鳴り響いた。


 そして、ガラリと教室の扉が開き中に担任の先生が入ってきた。

 短く刈り上げた短髪が似合う男性の先生だった。

 担当教科は体育で、野球部の顧問の長瀬ながせ先生だったかな。


「SHRを始めるぞ。全員自分の席に着きなさい」

『はーい』


 自分の席を離れて雑談をしていた俺を含めたクラスメイト達は、各々の席へと戻っていく。


 苗字が『山瀬』なので教室の後ろの方が俺の席だ。

 黒板に書かれた場所へと歩いて行くと、既に自分の席にカバンを置いていた百合香が目の前にいた。


「お?やっぱり去年と同じで百合香が隣の席なんだな」

「まぁ当然じゃないかしら?幸村と山瀬なら苗字も近いから」

「あはは。知らない奴が隣だと緊張するけど、知ってる奴が隣なら安心出来るな」


 俺が笑いながらそう言うと、百合香は少しだけ不機嫌そうに視線を逸らしながら

「……少しはドキドキしなさいよ、バカ」

 と小さく呟いていた。



 今でこそこうして軽口を叩いてはいるけど、知り合ったばかりの頃は話すのもかなり緊張していたのを覚えているな。


 幸村百合香は結構……いやかなり男子生徒から人気のある女の子だ。


 肩口まで伸ばしている髪の毛は綺麗な黒色。

 髪の毛を染めることが校則で禁止されていないので、大体の女子が髪の毛を染めている。


 だが、百合香は

『髪の毛が痛むのは嫌だわ』

 と言って黒のままにしている。


 その黒髪は彼女にとても似合っていると思っている。


 顔立ちも整っていて、キリッとした目元はとても魅力的だ。


 身長は150cm程度で、身長が低いことがかなりのコンプレックスみたいだった。180超えの俺や190を超える祐希に挟まれると、余計に小さく見えると怒り散らかしていることも少なくなかった。


 だが、小さな身体に似合わず女性らしい膨らみはしっかりとあることから、男子からは『ロリ巨乳』とか言われていたりする。


 当人に言ったらぶっ殺されることは確定だけどな。


 そんなことを考えていると、長瀬先生の諸連絡も終わったようだった。


 どうやらこのあとは体育館へ行って始業式があるようだ。

 それが終わったら教室に戻ってきて、自己紹介をしたあとに諸連絡を聞いて解散。という流れだ。


「それじゃあ俺はやることがあるから、先に職員室へ向かっているな。一組の皆は一ノ瀬の後に着いていく形で体育館へと向かってくれ」

「わかりました、長瀬先生」


 長瀬先生に俺たちの引率を任された祐希は、嫌な顔ひとつせずにそれを了承した。


 そして、長瀬先生が教室を出たあとに祐希は椅子から立ち上がって俺たちに声をかけた。


「野球部に所属してる一ノ瀬祐希です。去年は一年一組でした。長瀬先生は野球部の顧問だから、俺に言ったんだと思う。それじゃあ悪いけど俺の後に着いてきてくれると嬉しいな」

「了解です!!よろしくお願いします!!」


 俺が椅子から立ち上がって一番に祐希に同意を示した。


 こういうのはなるべく早くにこうして同意をするのが大切だと思ってる。


 俺の姿を見た祐希が少しだけホッとしたように表情を緩める。


「……こういう所が拓也くんのいい所なのよね」


「ん?どうした、百合香。そろそろ行こうぜ」


『一ノ瀬』なので教室の出口に一番近い祐希はもう既に教室の外で俺達のことを待っていた。


 こちらを見上げている百合香に、俺は軽く催促をした。


「そうね。行きましょうか」

「おう、祐希も待ってるしな」


 椅子から立ち上がり、俺と百合香は教室の外へと歩いて行った。


 そして、俺たちは体育館で眠くなるような校長先生と教頭先生の挨拶に耐えながら始業式を終えた。

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