第一話~新学期。通学路で亜麻色の髪の毛の美少女を見かけた~
第一話
今日から新学期。自室で登校のための準備を俺は急いで進めていた。
地元でも有名な進学校。海皇高校の二年生になった俺は、確かにセッティングしたはずのアラームが鳴らなかったことにかなりの焦りと憤りを感じていた。
親元を離れて一人暮らしをしている俺。目覚まし時計のアラームが無ければ起こしてくれるような人は誰も居ない。
「とりあえず、朝ご飯を抜けば間に合うな。自転車で二十分だからギリギリにはなりそうだけど、遅刻はしないで済みそうだな」
役に立たなかった時計を睨みつけながら、俺は小さくそう呟いた。
昨日のうちにアイロンをかけて置いた制服に袖を通し、準備を済ませてある鞄を手にする。
昨晩。この準備をしていなかったらと思うとゾッとする。
洗面所で歯を磨き、ヘアワックスで軽く寝癖を整えてから玄関へと向かう。
革靴を履いてから玄関の扉を開けると空はしっかりと晴れ渡っていた。
「雨の予報が夕方に出てたからな。とりあえず折りたたみの傘は持っておいた方が良いよな」
玄関に置いてある折りたたみの傘をカバンの中に入れてから、マンションの一室から出る。
しっかりと玄関に鍵をかけたあと、階段を使って一階に降りて行く。
三階から一階まで走って降りる方がエレベーターを待つよりも早いからだ。
それに、階段を降りる方がトレーニングになるらしいからな。
足を踏み外さないように気を付けながら階段を降りていき、自転車を置いている駐輪場へと辿り着く。
『0334』
チェーンロックの番号を入力し、ロックを解除する。
『なんでや!!阪○関係ないやろ!!』
って声が聞こえてきそうな暗証番号だが気にしないようにしている。
そして、自転車に跨りペダルに足を乗せて一気に漕ぎ始めた。
演劇部に所属している俺だが、文化系とは思えないレベルのトレーニングを課せられていた。
かなりの速度で自転車を漕いでいると、目の前をのんびりと歩く亜麻色の髪の毛を腰まで伸ばした『新入生』の女の子の姿が見えた。
ふわりと揺れて見えた首元のスカーフの色から、彼女が新一年生だと言うことがわかった。
随分とゆったりと歩いているが大丈夫なのだろうか?
だが、俺もそんなことを気にしていられるような状況では無い。
「おはよう、新入生。のんびりしてるけどそろそろ急いだ方がいいからな!!」
俺は彼女の横を自転車で通る時にそう声を掛ける。
その声に反応した彼女はこちらへ顔を向けた。
うわ。めちゃくちゃ可愛い子だな。
ちらりと見えた彼女の顔に、俺はかなりの驚きを覚えた。
「先輩!!もし良ければ後ろに乗せて貰えませんか?」
少しだけペダルを漕ぐ足が緩まった時に、彼女は俺にそう懇願してきた。
「おいおい、二人乗りは道路交通法違反だぞ?」
「こんな可愛い子を後ろに乗せられるのは幸運だと思いませんか!?」
なるほど。確かに非モテの俺にとって、こんな可愛い子を自転車の後ろに乗せて走ると言うラブコメライトノベルみたいな経験をするなんてのは人生で一度も訪れないだろう。
「仕方ないな。ほら乗せてやるよ」
「えへへ。ありがとうございます先輩!!」
彼女の隣りに自転車を停めると、ニコリとはにかみながら彼女は荷台に腰を下ろす。
そして、落ちないように俺の身体を細い腕でギュッと抱きしめた。
ヤバいな。めちゃくちゃドキドキしてきた。
新学期早々にこんな体験をするとは想像もしてなかったな。
「よろしくお願いします、先輩!!」
「了解だ。落っこちるなよ、後輩」
俺はそう声を掛けると、先程とは打って変わって慎重に自転車を発進させた。
後ろに人を一人乗せてるとは思えないような軽さに少しだけ驚きながら、俺はなるべく自転車が揺れないように道を選びながら自転車を走らせる。
「わぁ……やっぱり自転車は早いですね!!」
「俺がこうして声を掛けなかったらどうしてたんだ?」
黄色い声をあげる後輩に、俺は少しだけ疑問に思っていたことを聞いてみた。
「てへぺろって笑いながら謝れば許して貰えると思ってました!!」
「可愛い見た目に似合わずに、随分なことを考えてたんだな……」
「えへへ。世界で一番可愛いなんて褒めないでくださいよー」
……世界で一番とは言ってないんだけどな。
「本当ならもう少し早い時間だったんですよ。アラームをセットしたはずなんですけど、鳴らなかったんですよね。お母さんが起こしてくれなかったら致命的でしたね」
「そうだったのか。実は俺もアラームが鳴らなかったんだよな」
「先輩もですか!!これは奇遇ですね!!ですがアラームが鳴らなかったからこそ、こうして私を自転車の後ろに乗せることが出来たってことですからね!!幸運だったと思いますよ!!」
「ははは……そうかもしれないな……」
そして、そんな会話をしていると、俺たちが通うことになる海皇高校が見えてきた。
腕時計で時間を確認すると、五分ほどは余裕があるようだった。
朝ご飯を食べてたら間に合わなかったな。
「ありがとうございます、先輩!!とても助かりました!!」
「おう、気にするなよ。俺も後輩みたいな可愛い女の子を自転車に乗せるって経験が出来て良かったよ」
校門を通り過ぎたところで自転車から降りて俺がそう言葉を返すと、後輩は少しだけ申し訳なさそうな表情をしていた。
「あはは……そうですよね。先輩は『知らない人』でしたからね」
「は?」
知らない人?どういう意味だよ。
小さく首を傾げる俺に、後輩は誤魔化すように笑顔を浮かべながら手を振った。
「えへへ。気にしないでください先輩。それじゃあ私は自分のクラスを確認してきます!!」
「そうか。俺も自転車を置いたら自分のクラスを確認するかな」
「それじゃあ先輩、私は失礼します!!」
後輩はそう言うと、クラス分けの紙が張り出されている場所へと小走りで向かって行った。
「小動物みたいな女の子だったな……」
彼女が一体何を誤魔化したのかはわからないが、あまり気にしても仕方ないよな。
俺はそう結論付けると、自転車を押して駐輪場へと足を進めた。
これが俺、山瀬拓也と、可愛すぎる見た目の後輩、美澄花梨のファーストコンタクトだった。
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