第33話、証

ふふふ

指を鳴らそう!


錬金術で生成した「燃焼物」に酸素を混ぜて、この「手袋」で点火する。さあ、戦争の時間だ!


「ほら、ほら、炎が指先から!」

「バイク用手袋なんで耐熱性はないですよ」

「あ、それは大丈夫。指先からは2、3センチ浮かしてある」

「さっきの指貫手袋を着用しては?」

「サンプルではあったけど、このメーカーさんはなかったよね」

「バイクで指貫とか、手袋の意味がないですから」

「やっぱこの星マークがいい。火花で点火な感じ。でも指貫のサンプルもよかったから買ったけどね」

「試作品としては充分にかっこいいですよね、そのサンプル。文字入りで。指貫がだめなんすかね?まあ、車内では火を出すのは止めてくださいね」

「狭いところではしません」


結論、このブランド、いい感じ!


「いいんですか?俺まで?」

「うん。せっかくだからチームものみたいな?」

「いや、キーホルダーとお財布はぱっと見分かりませんよ?」

「だからいいんじゃないか!変身シーンやアイテムは秘密だからいいって、小学生が言ってたよ」

「それは実話なのか、アニメなのか判断に迷います」


ふふふ。

うちの子どもたちには小さな時からしっかりとアニメを見せていた。今から考えれば、世界に向けての英才教育を施していたといえよう。


俺の変身アイテムは指貫手袋。なんと一点もの!

「ここはテスト用に作ったものが売られていますからね」

「財布も良さそうだけど、この手袋の着け心地がよくてびっくりした。俺肌弱いからさー、あんまり手袋とか痒くなるから苦手なんだよねー。でもこれ好き。鉛筆持つ邪魔にならないし」

「そっちの手袋は?」

「あ、これねー。これさー、シルエットと星マークがヤバすぎて買っちゃった。なんか火花っぽくて」

「なんで火花なら買うんですか?」



さて火を消して、クルマの横でお店で売ってた1杯1.5€のコーヒーを飲みながらダベる。このお店は小さな2階建ての倉庫みたいな感じ。1階は小物、2階はライダースーツ。中も外も全体が白くて明るい。青空に映える。


「ねー。ライダースーツとか、結構な値段して驚いた。でも日本語喋る人達、2着とか買い込んでいて、どこで着るの?って」

「日本だと2倍はします。ここなら種類も多いので爆買いはできませんが買い込みますよね」


3、4人の若い子から壮年ぐらいまでの男性グループがふたつぐらい来ていて、2階にあるスーツフロアで楽しそうにきゃっきゃしていた。


「昔さ、男は買い物はさっさと済ますって暗黙の了解があってさ。つまんなかったんだよね」

「なんすか?それ?俺、ウィンドーショッピング好きなんすけど」

「俺もー。だから子どもの頃つらかったんだ」


まあ、そのうち気にならなくなったし、社会も変わってきた。

「好きなことをできないって嫌ですね」

「うん。マナーとかルールはわかるけど、暗黙の了解とかまで押し付けられたくないし、押し付けたくないよね」

「本当に問題ならルールになってますからね」

「ねー」


さっき確認してOKだったミント味のアイコスの蒸気が青空に消えていく。

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