第30話、不等価交換

「これ、天才!美味しい!高いけど、たまに飲みたいかも!」

「問題はオレンジのフレッシュさなんで、よく見てから買わないとカビ入りとか」

「こわっ!不安になった!」

「あ、ここのは大丈夫です。って周りみんな飲んでますし」


オレンジジュース搾る自販機。日本にもあるってニュースで見たけど、初めて体験した。


「空港とか駅に結構ありますよ」

「見てなかったかも。自販機って言われると見ないよね」

「日本は自販機だらけですからね。こっちだと危ないのでないですし、自販機の取り出し口から手を入れて盗む移民の子どもとかは普通に見かけます」

「あー、それ聞いたことある。移民とか、結構わかりやすいよね、こっちきて初めて知った」

「服と雰囲気が全然違いますからね。大体複数で移動してますし」


「なんかさ、別の世界の人たちみたい」

「俺からしたら来訪者様こそ別世界ですけど」

「まあ、そうなんだけど」


美味しいオレンジジュースが妙に酸っぱく感じる。

なんでかな。


「まあ、移民っていってもそれぞれです。合法的に来て宇宙開拓とか別の場所でも頑張っている方々も多いです。問題は宗教や価値感を盾にして地域に馴染まない方々ですね」

「会社にもいる。前の会社がよかったーって」

「いいところは取り入れて、悪いことは真似しない。そんな風に折り合いつけばいいんですけどね」

「わかる。このオレンジジュースだって、オレンジのままだと重いし、そんなに食べれないし、食べるのに時間掛かるけど、ジュースになったら歯がなくても食べれるし、持ち運びしやすいし、加工しやすい」

「でも、オレンジ」

「そうそう」

「そういえばローマにオレンジのパスタを出すお店がありますね」

「なに?なかなか楽しみだね」

「意外な味ですよ。あ、まあ、今日のお昼はボロネーゼの予定です」

「ボローニャでボロネーゼを食べて見たかった」

「エミーリア・ロマーナ州は美食で有名です。太らないように頑張っていきましょう」


「?」

「どうしました?」


子どもが静かに泣いてる。1€コインからだったらしく、10¢コインが使えないのでみんなと飲めないらしい。


「交換しよっか?」

「え?」


ビビられた。逃げそうな子どもに1€コインを見せる。

「あ、うん」


きちんと確認して交換した。

子どもはジュースを手に入れた。


「ありがとう、お兄ちゃん」

「・・・あ、クッキー持っていたから、みんなで食べて」

「Grazie」


子どもたちにありがとうを言われて嬉しい。

「今、絶対、お兄ちゃんって呼ばれたからですよね」

「なにをいうんだ、田村くん。さあ、子どもの笑顔を守れたし、先に進もうじゃないか!」


じと目でこっち見ないでください。もう。

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