第26話、時間の重み

やばい。からみ酒だ。


「先輩たちがお菓子とか、くれるんでもう、入社時からプラス6キロですよ!食べないと失礼だと思うから食べますけど!」

「先輩たちに止めてくださいって言ったら?」

「言いましたよ?朝きたらお菓子の山でしたから。でもなんだかんだで誘ってくださるので断りきれなくて」

「もう、走るしかないね」

「ジムに通うか迷ってます。このままだとデブになります」

「愛されてるね」

「うち、社員数少ないんで新人あんまいないんす。だから先輩たちが構ってくれてるだけです」


まあ、かわいいよね。素直だし。頭いいし、空気も読むから可愛がられない訳がない。先輩たちが構う理由の方が俺にはわかる。


「ついでに営業のコツとか聞けば?」

「それはいっぱい聞きました。でもまだまだ自分のものにできてなくて、悔しくて、申し訳ないです」

「先輩たちも気にしてないよ。とりあえず伝えて、あとはゆっくり自分のモノにしていけばいいぐらいで。たむくんならできると思うから言うし、ゆっくりでも先輩たちは見ていてくれるよ」

「焦るんですよ。よくしてくれるし、みんなの期待もわかるので。期待通りにできなかったら、とか。不安で」

「それも含めて、先輩って先輩だから。きちんと見ているし、期待って自分勝手だともわかっているし。たむくんが選んだことを肯定してくれると思うよ?たむくんは考えるでしょ?そりゃ、犯罪とかなら全力で止めるけどね?」

「そうっすかね」

「そんなもんだよ。長く生きるってそう言うこと。重たいってわかっていても若い子に期待しちゃうのはあるんだけどね」


向こう向いてぐすぐすしてるたむくんに近づいて、肩を叩く。


日本ならセクハラ、パワハラだけど、今だけは友人ってことで、許されてほしい。


「風邪ひいた?はい、ティッシュ」

「あー、そうですね。潮風が目に沁みました」

「大丈夫?まだ平気なら、もう少し飲もっか」

「そうっすね。せっかくなんでバローロ飲みたいです。日本だとまず買える値段でないので。一流の味って知りたいです」

「まあね。一流を知ってると上の人たちと付き合いが広がるから、いいものを知るのは大切だよね」

「でも高いんですよね」

「わかる。俺も若い頃はだいぶ無理した。あとは美術館とか博物館がいいらしいよ?俺はあんまり行かないけど」

「暇なんすよね、正直」

「わかる」


そういえば、後輩やあいつはやたらとアクティブにどっかいくのが好きだったな。


「じゃあさ、旅とか?」

「あー、いいっすね。俺も今回、旅にお付き合いしますけど、楽しいし、刺激的だし、この星空が綺麗だと思います」

「わかる」


赤い液体で満たされたグラスを持ち直して。


「じゃあ、改めて」

「はい」

「これからの旅にカンパイ」

「カンパイ」


2人でグラス越しに見つめ合う。

ぷっ。


「あはは!」「なんすか、これ!恥ずいっすよ!」


あー、面白い。

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