第23話、絵の中の迷路

「それじゃ。ありがとうございました」

「こちらこそ。またベニスに寄ったら気軽にきてね」


高級ヌッテラの作り方などを見学させてもらってしまう。いいのかな?ああいうのはノウハウだから、見てはいけないものを見た気がする。


「材料がないと作れませんし、採算が取れませんよ」

「そうなんだけどさ。この知識持ってお店開いたら、って」

「日本なら競合はいないからいいかもですね。ライバルはヌッテラです」

「あー、それ強いわー。俺、結構アレを朝食べるの好きだったんだよ」

「今は?」

「朝から食べれない。歳を取ると油が鼻についてダメ」


今は身体が若返っているからいいけど、一年後が不安。今から不安になったも意味がないのはわかるんだけど、不安になる。


「喫茶店とか確かにいいかも。ぼんやりさ。子どもが出ていったら、家売って、駅近くでかみさんとやろうかな」

「聚楽園駅前とか、誰もいないのでどうですか?」

「どこ?遊園地?誰もいないって、お客様すらいなそう?」


迷路みたいな石畳を抜けていく。

誰もいない路地や明かりが差し込まない通路に、鎧戸。木製っぽい赤い扉がとても美しく、気になってしまう。


「なんかさ、こういう街を歩くってほんと楽しいね」

「そうですね。香港とかよりは枯れたというか乾いた感じが俺は好きです」

「香港とかテレビでしか見たことがないけどそうなんだ?クーロンズゲートとかやった。なんかインモラルで奇妙な熱気がある感じ。俺の子どもの頃さ、バブルなんだけど、そんな感じ。電脳世界みたいな?」

「バブルは全く知らないんで、すっげー興味あるんですよ。あ、自慢話は抜きで」

「なに!?って言いたいけど、俺もバブルは学生で終わったから、自慢話はないなー」


たむくんと2人で表通りのドラックストアでスナック菓子とかを買い込み。


「ネットスーパーで買わないんですか?」

「あれだと地元の人が何買っているとかわからないじゃない?現地に行かないとわからないことも多いし。俺は知りたいって思ったら、まず飛び込むかな」

「そうなんですね」

「そうなんだよ。最近は解析とかさ、リモートで済まそうとすることも多いけどね。でも行ったことがない、はダメだと思うから、若い子には悪いけど、初めは対面で仕事をお願いするかな」

「リモート楽なんですよ」

「わかる。でも、やっぱ要所要所の確認は対面がいいかな。俺はそうしてる。あ、ほら、たむくんとこうして歩いてわかることってあるじゃない?」

「まあ、そうですね」

「たむくんの良さも会えばもっとよく伝わるよ?」

「え?そうですか?なら、今度から対面アポをお願いしてみようかな?」


少し伸びてきた影法師。嬉しそうにしっぽがパタパタしてる。


うん。会ってみたら、君の良さはずっと伝わるよ。俺はそう思う。

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