第22話、太陽の影をスプーンで崩して

「ふう」


だいぶ食べたし、落ち着いた。

モカ色の革張りなソファにダークブラウンの木製ローテーブル。


年季が入った欠けた食器は、元は上質な食器だったのだろう。ところどころ剥がれた箔押しがなされている。


室内は見渡せるけど、影の中にあるようで。

照明は付いていないが、見通せる。


外は明るく、青い空に白い雲。風が吹いて、雲をどこかへ運んで行っている。


おかわりのコーヒーは拒否された。

コーヒーの飲み過ぎは良くないからと、黄色いさんざし茶みたいなお茶を頂いた。


「これは私が普段飲んでるお茶だから、友達に出したことにしてね」

「ありがとう。この世界で友達ができて嬉しいな」

「え!!俺、俺がいますよ!」

「田村さん、お疲れ様でした」

「ひど!」

「冗談だよ。たむくんは後輩枠の友達です」

「後輩なの?」

「まあ、もうそれでいいです。えー、先輩!ゴチになります!!」

「いや、お茶ご馳走してくれたのマールさんだから」

「あ、ご馳走さまです」

「いえいえ」


とても酸っぱいのに、さっぱりした後味のお茶は、じいさんばあさんの家で出されたさんざし茶を思い出させる。


「このお茶はカフェインレスでビタミンCが豊富なの。さっぱりして飲みやすいでしょ?」

「日本だとさんざし茶みたいな味かな。飲んでみる?」

「あら、じゃあご馳走さまです」


ネットスーパーでさんざし茶とガラス茶器を購入。せっかくだし、ついでに飲み比べしてみよう。


熱いお湯を入れれば、赤い水色が綺麗な出る。カップに少しずつ、均等に入れる。さんざし茶もこれでいいのかな?


外は中天から午後のお日様、ガラスのカップに銀の匙、ミルクも何も入れない「さんざし茶」を一口飲んでも、誰も呼び出せないし、大体、紅茶はブランデーで割るものだ。


あまりに綺麗な水色に、思わず、カップを窓に向けて翳してみると、明かりで減色されていないビビットな空色と、透ける赤茶色が対比された。


「ごほん」


おっと。左の短手側1人がけのソファに座っているマールさんに耐熱ガラスのカップを差し出す。


「あ、すいません」

「いえいえ」


ご友人の前での空想はほどほどにしないと。

ありがとう、たむくん。

いえいえ。


アイコンタクトで会話終了。


「あら、飲みやすい」

「あ、本当に似てますね」

「私のお茶はエルダーベリーとリンゴンベリー を合わせたハーブティーで呼吸器系によいお茶なの」

「ドイツだと風邪のお茶っていいますね。蝶系の方は呼吸器弱い方多いですし」

「そうなの。小さいころは喘息持ちで大変だったらしいわ」


よく考えてみたら、右はポメラニアン、左は蝶々。


漫画よりもずっと不思議。

でも、ずっと温かい。


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