第9話、甘くないミルク

いい匂い。上質なカフェに来た感じ。


目の前にはクリームみたいな温かいチョコレートと、スライスされたこんがりバケット。ビスキュイに見慣れたジャンドゥーヤ。


一緒に運ばれたコーヒーの香りと相まって、とても香ばしい豆系のローストされた芳醇な香りが漂っている。


「これ、すっごくいい匂い。どうやって食べるのかな?」

「僕も初めてなので、よくわかりません」

「なら、とりあえず食べてみよう。せっかく、温かいし」


クリームをバケットに塗って、一口。

うわっ!?


「・。、!!?・っ、うま!?」

「あ、僕にも」


たむくんにクリームを渡す。目を見開いて、しっぽまでぴんっとなった。これ、美味しい。


「美味しいでしょ?その余韻のまま、コーヒーを口に含んでみて」


言われるがままに、コーヒーを飲めば、ヘーゼルナッツの香ばしさとチョコレート豆の舌に纏う香りにコーヒーの鼻に抜ける香りにバケットの持つ香ばしい小麦の香りが力強く合わさるけど、チョコレートの奥にいるミルクが柔らかく当たるため、そこまで強くない。


あくまでも、柔らかく嗅覚と味覚を、バケットのパリパリ感が柔らかなクリームの中に混じり食感を刺激していく。


「美味しい?」

「ええ、とても」

「よかったわ。うちの店の名物なの」

「ヌッテラの上級版ですかね」

「まあ、似ているわね。使っている材料や配合が違うけど。バケット、お代わり要ります?ビスキュイにクリームを塗って、コーヒーに浸して食べるのもおすすめよ」

「あ、ください」


全力で食べる田村くん。昆虫系お姉さんをガン無視して食べている。あ、ビスキュイがない。


「ビスキュイもください」

「クッキーとかも持ってくるわ。メレンゲ菓子とかも、名物なんだけど。その子の食べっぷりは、お父さんも喜ぶわ」

「お父さんがお作りに?」

「ええ。兄はゴンドリエーレよ」

「あれ?お兄さん、犬系でしたよね」

「猿系の方は殆ど同じ形質だけど、私たちは結構バラバラに出るわ。来訪者様、今のは結構際どい質問だから、気をつけてね」

「あ、すいません」

「いえいえ。知らなくて当然だから気にしてないわ。それよりせっかくこの世界に来てくれた来訪者様にうちのお菓子を気に入ってもらいたいから、コーヒーじゃなくてミルクも持ってくるわね」


パチンとウインクされて、出て行ってしまった。


「失礼なことしちゃったかな」

「気にしてないと思いますよ。本当に怒っていたら、追加ないでしょうし」

「だといいんだけど」


田村くんが、真剣にこっちみてる。

「来訪者様」

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