第8話、午睡とジャンドゥーヤ

あれ?


気がつくと立派なソファの上。天井は一面ヘリンボーン。照明器具はスタンドタイプだけの室内には風が吹き込んでいて、青いカーテンとレースがゆらゆらと不定形三角形を作っている。


その窓は青空と、青い海とオレンジ色の屋根が光で、全体的に白い。室内は暗いけど、柔らかな日影で、室内をシャープな輪郭で映し出している。


「あ、お気づきですか?」

「ポメくん」

「田村です。学生時代もそのあだ名なんですが、そんなにポメラニアンですか?」

「ごめん。つい。田村くん、ここは?」

「お疲れのようで眠りに入られましたので、船頭さんのお知り合いのホテルの部屋をお借りしました」

「そう。ごめんね、迷惑かけたよね。どれくらい寝てた?」

「3時間ほどです。こちらこそちょっとスケジュールが密でした。改訂版です」


氷の入ったお水と一緒に見積もり書みたいにカクバンが発行された。


たむくんのしっぽがしょげている。

悪いことしちゃったな。


新しい遠足のしおりはより情報が細かく俺好みになっている。ARIAのあの場所のモデルとか、アサシンクリード2ではなど、オタクの聖地巡礼をばっちり網羅してある。しかも表紙の裏は人生ゲーム?みたいなスタンプラリーになっていて2つすでにかわいいネコスタンプが付いている。


「え、っと。今、一回休みのマスかな?」

なんか、じっと見られて、居心地悪い。くんくんしているのをみると、汗臭いのかな、俺?着替えた方がいいかな。


「異常は無さそうですね。熱中症かと思って慌てました」

「ごめん」

「いえ、僕の不注意でした。すいません」


お互いに謝って、顔を上げたら、目が合った。はにかんでる田村くんと同じように、俺も笑っている気がする。なんだか、ほっとした。


アサシンクリードみたいな世界でエツィオのように駆け巡り、謎解きするのもいいけど、こうして友達と観光して笑い合っているのも嫌いじゃない。


「これからどうする?」

「次はサンマルコ寺院と鐘楼、美術館を観てから夕食の予定でしたが、また明日にしましょう。体調優先です」

「なんか、いい匂いしているよね」

「ヘーゼルナッツを煎る香りにチョコレートですね。ここの下、ジャンドゥイオットを作っているカフェです。お部屋もお借りしましたし、ここでカフェしましょうか」


ベルを鳴らすと蝶の羽が生えた昆虫っぽいお姉さんが来てくれた。


「すぐに用意してくれるとのことです。出来立てを食べるのは初めてなので、楽しみです」


にこにこ笑う田村くんに釣られて「楽しみだね」と笑い返した。

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