第6話、カルツォーネと口笛
最後にコーヒー飲んで、外へ出る。
スマートウォッチでお支払い。
「タベルナだとチップは出さないことが多いです。請求書はきちんと見て、払う必要がなければ削除してください。税金と間違えないでくださいね。あと特別なサービスを受けたとかは小銭などを渡すとスマートです」
「スマートウォッチとかだとどうなるの?」
「あ、普通に支払い金額にサービス料とか入っていることが多いので項目を確認してください。店員さんに確認しても全然OKなんです。疑問があったら僕に言ってください。以前はお釣りをいつまでも持ってこないとかで誤魔化すお店もありました」
ちょっと硬そうな手のひらというか肉球をグッと握りしめて、尻尾を立てる田村くん。
なんて渋い感覚なポメラニアン。頭の良さは間違いないのに、とっても関西人。
聞けば、名古屋出身。名大法学部を主席卒業で営業職になったとのこと。理由は「法律って政府とか偉い人の都合よく変わるし、覚えて使うだけなんで、先がないなと思いまして」。もう、なんか、遠い世界なポメラニアンさん。さん付けしてなかったけど、ごめん。
「あ、あっちです。レモンソルベがおすすめです!」
路地裏から見た青空と石で囲まれた世界は、太陽光で白く、影は黒い。
尻尾振りながら、路地から少し広い道路に向かって、でも俺に振り返りながら手を振っている田村くんは、どうやってもマスコットキャラ。さんにはならない。ごめん。
ドラッグストアチェーンの並びにある売り場が路面に面しているタイプのアイス屋さん。
注文したレモンソルベを薔薇の花びらのように盛り付けてくれた。アイスの花束。
「あ、かわいい。これ、テレビで見たことある!」
「早く食べないと溶けます」
「うわ、すっぱ。ほんとにレモン。だけど、皮が入ってるし、少しもったりしていて滑らかで食べやすいかも。さっき食べ過ぎたから、口の中、さっぱりする。あ、やっぱ嘘。甘さが口に残る気がする。でも、美味しい」
「ここのソルベは自家製で、BIO認定のレモンを使っているから、皮まで入っています。あ、こっちです。さっきアプリで予約したので、このままゴンドラに向かいましょう」
田村くんはラズベリーソルベ。一口貰ったけど、これも美味しい。つぶつぶ感が少しある。
「どうぞ」
「ありがとう」
お手拭きして、差し出された水を飲む。
本当に素晴らしい営業さん。気がついたら、あっさり好感度アップで納品書手配したくなる。
「いえ、品質で買ってください。技術部や製造部、生産技術に品証とみんなが精一杯、作った製品です。俺で決めなくても、自信があります」
「あ、ごめん。もちろん、品質と価格で納品決めます」
「う。ご指名頂ければ、勉強します」
聞けば、品質はいいし、デリバリーもいいが、コスト競争で他国より高いらしく、差別化された製品作り中らしい。異世界とはいえ頑張ってほしい。
「ほら、見えてきました。いきましょう!」
こっち、こっちと少し前を歩きながら手を振ってくる彼との時間は、水面で温められた風と同じでどこか、懐かしかった。
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