第5話、手長海老のパスタ

飛行機は快適だった。フラットシートに温かいコンソメスープに軽食。映画が途中になってしまったのが残念だった。


昨晩

「ファストトラベルとかないの?」

「そのようなスキルや魔法もありますが、貴重なのであまり一般的ではありません。入国手続きがあるので、何処へでもとはいきませんし、パスポートもありますので、ひとまず飛行機に乗って、次からは利用を考えてみるのは如何でしょうか」

「ついでにステータスなどを確認する時間とされては如何ですか」

「あ、そうだね。忘れていたよ」

「はい。では、朝8時に参ります。朝食後、9時30分にフライト、現地時間朝7時30分到着予定です」


理路整然な田村くん。

おやすみなさいと言って扉を出て行った。隣の部屋を用意しているとのこと。


で、今。到着してからもばっちりなアテンド時間を過ごしながら、今、ブランチ。


田村くんオススメはヴェネツィア名物の手長海老のパスタ。


ちょっと路地裏の角なお店で観光マップに書いてある有名店ではない。少し奥まった場所で水路に面している。ぱっと見、お店だとわからないけど、11時の開店と同時に俺たちが入ってから、あっという間に満員になった。


「観光マップのお店は旅行者向けでイマイチです」

「ここ、よく見つけたね」

「日本語のブログ記事紹介もありますよ」


しっかり、水路が見えるけど、日差しが来ないアンティークな家具に囲まれた落ち着いた場所を指定して着席。さっさと注文。


「スープは軽めの白いスープにしますね。バケット食べます?」


英語ペラペラな田村くん。聞けば3カ国喋るトリリンガル。なんなの、この子。


「訪問者様は言語スキルをお持ちと聞いています。」

「言語スキルというか、アイテムがあったよ。補聴器みたいだけど」

「言語アイテムは貴重なので、盗難に気をつけてください」

「大丈夫。これ、俺しか使えないって。あ、この天ぷらみたいなの美味しい」

「アーティチョークのフリットです。今の時期だけ、この店の名物料理です。あ、スープ取りますね」

「ありがとう。前菜のフリットとスープで満腹なんだけど、これからパスタでしょ?デザートどうする?」

「ソルベは外に有名店があるのでそちらにしましょう」

「さっきもフリット屋さんあったけど、食べ歩きとは違うの?」

「食べ歩きのは小魚です。下にジャガイモの粉末を牛乳で戻したディップが付いていて、それで一食になってしまうので。まずは美味しいものを食べてほしいな」


きらきらなつぶらな田村くん。でも、めっちゃ食べてる。君が食べたかっただけだよね?尻尾が振り切れんばかりに振られている。まあ、若いしなかなか食べれないよね。


「高級レストランとかに行く?」

「高級だからと美味しい訳じゃないのです!」

「あ、あ、うん。そうだね」


スープは魚介。小魚とか入っていて具沢山。パンはスティック状でパリパリ。ほんのりあったかい。


ここの手長海老のパスタはトマトとかで誤魔化さないでこの鮮やかなオレンジ色らしい。


「これ濃厚で美味い。もったりしているけど、風味はアメリケーヌソースに似てる。もっと、全然美味しいけど。パスタももちもちだね。アルデンテって日本だけってテレビでやってたけど、全然ぷりぷりで美味しい」

「ここのは混ぜ物なしなので、おいしいと思っています。あ、スープ最後、飲んでいいですか」

「いいよ。お腹いっぱいだ」


まだお昼。のんびりと過ごすかな。



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