第3話、モーニングショットはエスプレッソ

202X.4.1 イタリア、ベニス


結構、本気で行ってみたかったんだ。ARIAの世界。AQUAからずっと読んでたし、OVAとかも繰り返し観てた。その世界観が大好きでグッズとか集めてた。


水の都。


少し斜めな石畳が水面に映り、石造の建物はスクリーン代わりになって、水面の光が映し出される。


水平線まではスカイブルー、水平線から下はターコイズ。絵に描いたように分かれた世界の額縁はオレンジ屋根とベージュ色の建物。


水面が鏡になった絵とか写真、見たことある!あ、横に係留されてるゴンドラ、かわいい。



「・・・」


もう、感無量!?握りしめた拳をガッツポーズにしないだけの自制心があってよかった。ウインディーネに会いたい!絶対にゴンドラに乗る!


思わず、見開いた目が映したのは、ウインドウに反射する地球の歩き方を握りしめた観光客な俺。


「ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「ああ、はい。大丈夫です」


肩掛けカバンに観光案内を入れるふりをして、アイテムボックスを開き、ペットボトルを取り出す。時間経過しないから冷たいコーラが飲める。


あの後、目が覚めたら羽田空港の第3ターミナルにあるホテルの一室だった。


身体が軽い。すぐにわかった。


ずっと染み付いていた頭痛がない。適度に硬いベッドを下りてバスルームにある鏡を覗けば30歳ぐらいの俺がいた。


すっかり忘れてた感覚に歓喜が抑えきれない。今すぐに叫びたくなる。


「ひゃー・・・」


いや、落ち着こう。俺はそんなキャラじゃなかった。クールな2枚目、でもちょっぴりお茶目で優しいキャラ。


いや、このキャラをやめるんだ。俺は俺自身を覚醒させる・・・!!もっと素直に、貪欲な俺自身を。


鏡の中の俺と目が合うと苦笑いをしている。


そうだ。表情筋が壊れているとか散々に同僚から言われた俺はいない。今なら右手に包帯が巻ける!!


いや、まずはスキルチェックをしよう。

1年間という時間ならタスク管理しないと網羅できない。


圧倒的な無双ゲーム・・・、俺ならできる


緊張しながらテーブルに座って、置いてあるペットボトルを飲む。


そして唱える「ステータ」


ステータスは普通に開いた。半透明なポップアップディスプレイ的に右手の上に展開された。


4月1日0時32分(JST)。


空気読めよ。テーブルの上には冷たいコカコーラ。先回りして準備しすぎなんだよ。


落ち着かれるまで待ちましたが?


本当に嫌なやつだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る