第五十四話 ~失敗の産物~
せわしなく動き回る仲間を白々しく見つめながら、狭い実験室で向かい合わせに設置されたカプセル型の装置の片方に入り目を閉じる。
懐かしい感覚だ。一度目の転生をしたのはもうずいぶん昔の記憶だったが、いざこうしてカプセルに入ってみれば、その時の記憶が鮮明に思い出された。
……あぁ、そうだったな。思えばあの時もこうして実験体として生贄にされたんだったなぁ、と。
あまり楽しくない記憶が甦ってきたので、俺は考えることをやめた。
装置が起動すれば、体感としては一瞬だ。
次に俺が目を覚ませば、俺の精神は向かいのカプセルに入っている新たなボディへと移動しているはずだった。
何も見えない暗闇に引っ張り込まれるような感覚が襲い、そしてすぐに離された。
プシュッという開閉音と共に目の前の扉がスライドし、実験の終了を告げてくる。
だがどういうわけか、俺が目覚めたのは入ったときと同じカプセルの中だった。
別にここまでは何の問題もない。単純に実験が失敗したというだけの話だ。ここで俺が体を起こし、仲間に向かって「やはり、生身とは違うようだな」と声を掛けて今回の実験は終了。
……となるはずだった
何がどうしてそうなっているのかはわからないが、向かいのカプセルにあるボディが動いたのが見えた。
実験が成功したと勘違いしている仲間たちがそのボディへと称賛の声を掛けながら群がっていく。
……またずいぶんと面倒なことが起きているらしい。
今までの転生実験において、精神の移動に失敗した場合、ボディだけが稼働したという事例はない。
言うなれば、ハードを動かすためのソフトのインストールが出来ていないのだからそれが当然なわけなのだが、リターナーの再転生は通常の精神移動とは違うリスクを孕むということなのだろうか。
まずは状況の確認をしようと思い、俺もカプセルから体を起こす。
「どうして、そのボディが稼働しているんだ?」
当たり前の疑問を口にしたはずなのに、そこにいた仲間たちはまるで幽霊でも見たかのように驚いた顔をこちらに向けてきた。
その反応を見て、今回起きている未知のトラブルが何なのか察してしまった。
あのボディはただ動いているだけではなく。
「……どうして動く?」
黒髪の青年。俺が移るはずだったボディが話しかけてくる。
動揺に揺れる瞳は何が起きているのかを理解するには十分だった。
だから、俺は頭をわざとらしく頭を抱えてみた。
「おいおい、もしかしてそういうことか?」
俺の問いかけに引きつったような曖昧な笑みを浮かべる青年は俺の目を真っ直ぐに見返しながら、怖々とその確認をしてくる。
「……君は本当に白間燕翔か?」
返事は不要だと思い、俺はピースサインで青年に返答した。
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