第三十四話 ~表と裏の感情~
「今日も無理なのか?」
『悪いな、ちょっとバタバタしてて』
「今のこの街でのバタバタなんて、大したものでもないだろう?」
『例え同じ状況にいても、個々の意思がある限り、人間という生物は完全な同意見を持つことは決してできないのである』
「なんだその胡散臭い言葉は? 一体誰の言葉なんだい?」
『僕だ』
「……それはすごいね。あとは偉大な何かをすれば格言として後世に語り継がれるかもしれないよ?」
『別に後世にまで伝わって欲しいわけじゃないけどさ、友人一人くらいには伝わって欲しいかな?』
「……わかった。なら今日も私は一人寂しく仕事をするよ」
『埋め合わせは必ずする。最近物騒だし気を付けろよ』
「忠告をありがとう。心配くらいは素直に受け取ろうじゃないか」
『ところでさっき寂しくって言っ──』
通話を切る。その場で制裁を与えることもできないのに不愉快な言葉を聞くつもりはない。スマホを適当に放り投げ、腰掛けていたベッドに寝転んだ。
結局今日も部屋に閉じこもることになるのか。
あいつがつれなくなってから、外に出る回数が減った。
あくまで任意参加である塾になど行く気にはなれず、ましてや、一人寂しく街に出て仕事なんかしたくなかった。お気に入りとなりつつある制服も最後に着たのは一体何日前だっただろうか。
「六日前だな……」
自分でポツリとつぶやいた言葉に顔が熱くなる。
律儀に最後にあった日を覚えているなんて、私はおあずけをされている犬か!
そう思って、さらに顔が熱くなった。
なんだおあずけって。まるであいつと会うことがご褒美みたいじゃないか。
最近の私は何かおかしい。これでは本当に甘酸っぱい青春を過ごす女子学生みたいだ。そういえば初めてできた彼氏となかなか会えないとき、こんな感じにもやもやしたような。
……よし、もう考えるのはやめよう。あいつと私は友人だ。ペットとご主人の関係でもなければ彼氏だなんて断じてない。
火照った顔を枕にうずめる。
それでも気が付いたら、次に会ったらどこを回ろうかと考えてしまう。
西区と中央区はほとんど回ったし、東区にでも行ってみるか?
けど、あそこもただの生活区だしあまりおもしろくはなさそうかな。
……まぁいいか。見る場所がなければ、あいつと喋ってればいいんだし。
意識が朦朧とする。
まだ昼過ぎだというのに少し眠くなってしまった。
現実が退屈なら、せめて楽しい夢でも見ようと思い、目を閉じる。
「白間……」
意識が落ちる瞬間、何か言った気がするが気のせいだ。
顔をうずめる枕が少し湿った気もするが……絶対に気のせいだ。
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