第三十二話 ~ゴーストタウンと皮肉な再会~
「機嫌治そうぜ? 頭撫でただけじゃない」
「これで何回目だと思っている? 私が君に嫌だやめろ撫でるなと言った回数を言えるものなら言ってみてほしいよ」
「五回だな」
「……なるほど。数をわかっているということは、一時の気の迷いに流されたからというわけではなく、確信犯として私にちょっかいをかけてきているわけだな?」
「すげぇ怖い顔。怒るんならちゃんと見た目相応にほっぺ膨らませながら、もぅ~頭撫でるのやめてよぉ! とか言ってくれたほうがお兄さん嬉しいんだけど」
「私だって好きでこんな見た目になったわけじゃない!」
「嘘つけ。ボディモデルこそ選べないが、年齢は自分で選ぶんだから、お前は望んでロリっ娘として第二の生を生きることにしたんだろう?」
「唐突だが問題だ。私の設定年齢は何歳でしょうか?」
「小学生」
「何歳かと聞いたのにわざわざそう答えてくれてありがとう! ちなみに答えは花も恥じらう一六歳の女子高生だ‼」
「え……? その見た目で? なんかその、ごめんな。茶化したりして……」
「まじ謝りはやめてくれないか? 泣いてもいいんだぞ?」
エスケープ後の検査を終えて、施設を出てからすでに一ヶ月。
第一期でエスケープを受けることが出来た私は、風石津羽音という新しい名前と共に北区にある学生寮へと引っ越し、新生活を開始していた。
現状エスケープは第一四期まで実施されている。
果たして第何期まであるのか。そもそも一回でどれほどの人数が実施されているのかもわからないが、半年で希望者全てのエスケープを完了させ、全員がある程度新しい体に慣れたタイミングで、まだ外にいる賛同者をこの街に受け入れる流れになるらしい。
だから、外の賛同者が合流するまでは、試生市はとても中途半端な形で運営されることになる。
現に今の私は見た目こそ(誰が何と言おうと)花の女子高生だが、本物の学生が来るまでは学校が開校されないので、今は政府開催の塾のような場所で、現役の学生の中で浮かない程度の学力を確保するため勉強をしている。
時代の流れとは怖いもので、忘れている部分が多いことに目を瞑ったとしても、私が学生の頃に習った知識では今の平均的な学力の足元にしか及ばない現実があった。
馬鹿呼ばわりも癪なので、勉強にはかつてなく身が入っているのだが、それも週に三回行く程度。早くエスケープを受けた分、新しい体に慣れることはできるし、こうして勉強できる時間も多く確保できるので、色々と有利なことはあるのだが……いかんせん暇だった。
エスケープ待機者は全員東区に集められており、他の区には人が驚くほどいない。
生活に必要な施設は最低限動いているものの娯楽の類は全くなし。しかも、学生の居住区は中央区を挟んだ北区と南区で分断されているため、街中に居るというのに学生としてエスケープした人間とも滅多に会わない。
ようするにゴーストタウンのような場所で、一人寂しく退屈を凌がなければならなかったのだ。
最初は散策の意味も込めていた目的地なしの散歩が、いつの間にかただの日課になったのも仕方ないと言える。
そして今日も同じように散歩をしていた私が街中で偶然再会したのが、エスケープ後の稼働チェック中に痴漢を働いてきた変態──白間燕翔だった。
当たり前のように私についてくる変態は胡散臭く笑いかけてくる。
「それで今日の予定は?」
「そんなものはない。部屋にいても暇だから街に出てるだけだ」
「なんでそんなツンケンしてるのさ」
「ツンデレ女子高生というのは需要があるのだろう?」
「え? もしかしてキャラ作ってんのそれ?」
「冗談のつもりだったんだが……」
「わかりにくいって。ただでさえ芝居がかった口調なのよあなた?」
「個性と受け取ってほしいな!」
強い口調で白間の言葉を否定する。
正直私の話し方は特殊な語尾が付くアニメキャラクターと一括りにされたって仕方ないと自負すらしている。
……だが、言えない。
エスケープ前に一人の時間が多すぎて、何気なく見始めた男装ミュージカルにハマった結果、年甲斐もなく口調を真似するようになり、それが習慣化したなどと……‼
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