第二十四話 ~頼りない武装~


「あれ? 何か忘れ物でもした?」



 暖簾をくぐると、準備を済ませた真が逃げるためにこちらへと走ってきていた。

 真は知らないだろうが、作戦が変わったので逃げることなど許さない。

 逃亡を止めるために莉緒は仕方なく、走り込んできた真の首元目掛け、思いっきりラリアットを打ち込んでいく。

 突然の攻撃に対応できなかった真がゴロゴロと床を転げまわった。



「ごふっ……どういうつもりだぁ……! 僕たちは、仲間だったんじゃないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……‼」

「あぁ仲間だ。だから一緒に風呂へ戻るぞ」

「え? 何それどういうこと⁉」



 信じられないものを見るかのように、真の目が見開かれる。

 そんな真に向けて、莉緒はとても手短に状況を説明した。



「作戦変更だぁ! 風呂場のあいつをここで完全に撃破する!」

「ちょちょちょ待って! なんでそんな作戦難易度跳ね上がってるの⁉」



 雨切が一枚上手だったというのが最大の理由ではあるのだが、そんなことを説明せずとも、真ならあれを見れば莉緒と同じ答えに辿り着くだろう。

 そう判断し、莉緒は暖簾の先を無言で指差した。真は意味が分からなさそうに首を傾げつつも、暖簾の方へと歩いていき、顔だけをそこから外へ覗かせる。

 そして、逃げることが許されない理由を理解し、肩を落として帰ってきた。



「あの素敵空間を壊す度胸があるなら逃げようじゃないか?」

「無理だよぉ……反則、あれは反則だって……!」

「さぁ……あいつに思春期男子の身体の残り半分、煩悩の力をみせてやろうぜ!」

「あぁもう! 地獄まで付き合ってやるよ!」



 命を懸けてでも守りたいものがあったのだから仕方ない。

 変なテンションで脱衣所に戻り、莉緒は鞄に詰め込まれていた携帯型の充電器をいくつか取り出して真にも投げ渡す。

 それこそ真が準備してきた戦闘のための武器だ。



「ところでこれって何に使うの?」

「お前がちゃんと指示通りのものを買ってきたなら、簡易型の発火装置になる」

「いや、たとえそうでも発火させてどうするのさ……」



 電子機器分野は真っ先に機械に仕事を追われこそしたが、その分様々な製品が従来の価格より大幅に高騰した。

 純正品を買うのが馬鹿らしいと思える人間は一定数以上おり、そういったニーズに応えているのが、仕事を追われた技術者たちだ。

 

 壊れたりして使い物にならなくなった製品を組み合わせて作っている模造品。

 言うところのパチモン製品はすでに生活に浸透している。機械による製品には劣るが、普段使いする分には支障のないものを純正品の半分ほどの価格で入手することが出来るのだから必要悪というものだろう。


 当然、ほとんどの人間はその程度の水準は維持された製品を買うわけだが、その価格すら手が出にくいユーザーのために博打商品というものが存在している。

 名前に偽りはなく、しかも動くかどうかの博打ではなく、安全面の保証が何一つないという博打だ。


 莉緒が取り出した充電器で言えば、すでに外観にひび割れが生じている。

 そのひび割れは経年劣化や落下などによる破損ではなく、中に入っている充電バッテリーが膨らみ、押し広げられたために生じたものだ。


 そんな粗悪品ばかりで組み上がったジャンク品というより危険物一歩手前の携帯充電器なら、最大充電状態で思いきり叩き付ければ発火現象を引き起こせる。

 さらにそこに同様の膨らんだ充電バッテリーを裸で括りつけてやれば。



「爆弾とまではいかないが、十分武器としては機能するだろ」

「……グレー寄りのアウトゾーンじゃなくてこれだけで完全にアウトゾーンにならない? 危険物所持になるでしょ、なんなら今から使うわけだし」

「鈍器で頭殴って、その後縛ってお湯に投げ込んでおきながら、まだアウトゾーンになってなかったとでも思ってるのか?」

「そりゃそうだ……」



 脳震盪くらいは起こしているだろう雨切一人なら、最悪これでどうにか出来るかもしれない。そんな神頼みにも似た無謀とも言える戦いになる。

 テロリストと言われても否定できない武装を手に深呼吸。

 お互いに顔を見合わせ、心の準備ができたところでさっき封鎖した戸を勢いよく開け放った。



「さぁ! お望みどおりの対決をしに来てやったぜ!」

「二対一だけど卑怯だなんて言うなよぉ!」

「おや?」



 雨切はすでに湯から脱出し、タイルの上で乱れた髪を整えていた。だが、莉緒たちを意外そうな顔で出迎える雨切の横には何故か、



「ふ~ん、わざわざ戻ってくるとはいい心がけじゃんか」



 セーラー服の少女がいた。

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