第十三話 〜抵抗の兆し〜

 

 理不尽な暴力が真を襲っている。

 センターを出た後、莉緒はすぐに静希と真を呼び出した。

 話すべきかどうか迷ったが、静希は津羽音とすでに面識がある。

 もしも津羽音に何かあった場合、それを知った静希なら個人で動く可能性があった。それなら、最初から事情をある程度説明して一緒に行動したほうが、静希の安全も確保できる。


 真は……まぁ色々と役に立つ駒として徴兵した。

 時間がどれだけあるのかわからない以上、人手があるのに越したことはない。


 ただ一点。

 合流し、移動しながら手短に状況を二人へと話していた莉緒にとって誤算だったのは、静希が思った以上に取り乱したこと。

 事情を話した瞬間、街中にもかかわらず、静希が泣きそうな顔で殴り掛かってくるというハプニングが勃発していた。

 仕方なく莉緒は近くにいたで防戦しつつ、静希を落ち着かせている真っ只中だ。



「どうしてよ! 何で津羽音ちゃんが!」


 ゴッ!


「そうだよな。お前もそう思うよな!」

「意味が分かんないよ、だって悪いことしてないじゃん!」


 ゴッゴッ!


「とにかく落ち着け静希、いくら八つ当たりしたって状況が変わるわけじゃない」

「落ち着けるわけないでしょ!」


 ボッゴォォォォォォォォ!


「こうやって無駄な時間を過ごしてる暇があるなら、今から津羽音と会って話をしたりしたほうがよっぽど建設的だと思わないか?」

「そうかもしれないけど……」



 何度も打ち込まれていた拳がとうとう止まり、静希が俯いた。



「そんなの聞いちゃったら、津羽音ちゃんに何話していいのかわかんないよ……」



 そんなのは莉緒だって同じだ。

 けど、どうしていいかわからないと言って、それで何もしないまま諦めたら、もっと大事なものまで諦めることになる。だから、危険を承知でこうして行動することにしたのだ。


 莉緒は構えていた盾を適当に投げ捨てて「オワッタ……? オワッタノ……?」俯いている静希の肩を掴んだ。



「俺だってどこまでできるかわからないし、何が正解かなんてわからない。けど、ここで何もしないで津羽音がいなくなったら後悔するだろ?」

「……うん」

「助けられるとしたら俺たちしかいない。なら行動あるのみだ。こんな理不尽であいつを死なせるなんて絶対に許すわけにはいかない!」

「そう、そうだね!」



 少しクサい台詞ではあったが、静希は思いの外、前向きになってくれたようだ。こういうときはテンプレのような言葉のほうが届くのだろう。

 気持ち的に静希を立ち上がらせた次は、地面に転がる真を物理的に立ち上がらせる。



「あ~真、そんなわけで悪いがお前にも付き合ってほしいんだが」

「……この仕打ちの後に……まだ何かをさせるのか……?」

「おう。美少女中学生を何とかして助けたいんだ、力を貸してくれ」

「しゃおらぁ! やってやろうじゃないか!」



 バネでも仕込まれているんじゃないかという勢いで馬鹿が起立する。

 だが、冷静になったことで状況の難しさを理解したのだろう。静希は彼女らしくもなく、不安げな顔で莉緒に声をかけてきた。



「……それで具体的にこれからどうするの?」

「まずは津羽音と話す」

「けど、話してどうするのさ? 助けたいっていうなら、それこそ政府のほうに異議申し立てるほうが確実な気もするんだけど」



 真の言うことは正攻法ではあるが、今回に限ってそれは悪手でしかない。

 本人以外には基本公表されることのないリターナーの治安維持活動の記録結果を知っているだけでも怪しいというのに、まだ発表すらされていない津羽音の処遇について知っている莉緒たちは向こうから見たら、政府関係者でもないのに内部情報を得ている犯罪者のように見えるだろう。


 その程度の不信感で済めばいいが、莉緒が来て何かをしたら、今回の件を邪魔しようとしているため拘束せよ。なんて指示が出ていたら目も当てられない。

 そのままその場で拘束なんてされようものなら、文字通り手も足も出なくなってしまう。



「多分それは意味がない。だから津羽音を間引こうとしている理由のほうを取り除く」

「どうやって?」



 莉緒の頭に昨日の光景がよぎる。

 あの時の違和感は勘違いではない。


 

「……ちょっと心当たりがあるんだよ。それを確かめることが出来れば、糸口にはなると思う」

「けど、一応政府が正式に出した処罰なんでしょ? 一般人が見つけられるような糸口でそんな簡単に覆るものなのかな」

「罪状に正式名称すらないほど前例のない処罰だぞ? 万が一にも誤認による執行なんてことがあったら一大事になる。津羽音がその処罰を受ける理由が少しでも霞めば、延期撤回させることは難しくないはずだ」



 博打なのは間違いないわけだが、正攻法よりも可能性が高いのならばつき進むしかない。

 だから、とにかくまずは津羽音と会わなければ。

 莉緒はポケットからスマホを取り出し、体を九十度に曲げると静希へとおもむろにそれを差し出した。

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