第十四話 ~冷たい予感~


「そんなわけで津羽音の連絡先を教えてください!」



 魂からの叫びだった。

 津羽音を救いたいという熱い心が言葉の端々から漏れ出しているようだった。



「……何か有事にかこつけて連絡先聞き出そうとしてない?」

「してないしてない、全っ然してない!」

「怪しいから却下、私が連絡する」



 だが、莉緒の魂は伝わらず、静希はご丁寧に背中を向け、鞄から取り出したスマホを耳に当てる。

 邪険にされることなど珍しいことではない。その程度は日常茶飯事だし、この展開も正直見えているものだったので莉緒は特に文句を言うことなく、下唇を静かに噛んでこそいたが大人しくスマホをポケットにしまう。



「ねぇ、繋がると思う?」

「ぶっちゃけ五分だな」

「それがわかってるなら、僕は無理矢理にでも莉緒のスマホから掛けるべきだったと思うよ」

「……お前ってたまに鋭いよな」



 正直なところ津羽音が連絡を取れる状況にあるのかどうかは怪しい。

 治安維持活動でリターナー側が間引かれる初めてのケースだ。どういう段取りで彼女が間引かれるのか見当がつかない。

 一度どこかに呼び出されるのか、はたまた突然間引かれてしまうのか。

 なんにせよ逃亡防止のために拘束、もしくは監視されてる可能性は十分にある。


 仮に津羽音の身柄がすでに拘束されていた場合、着信があればその相手が誰なのかを調べられることになるだろう。

 静希と莉緒が友人関係だと知れば、莉緒が津羽音に関する情報を静希にばらしてしまい、心配した静希が連絡をしてきたと思われる危険性があった。


 現状で津羽音の救出に手を貸してもらうため声を掛けてしまっているが、こじつければそれはあくまで莉緒の協力者であり、莉緒がわけもわからない二人を利用していたと言い訳自体は出来る。

 だが、着信があったとなれば、静希個人が今回の件に関わっていると思われても仕方ない。



「さっきみたいな態度をしたら、静希が自分で掛けるって言い出すのわかってたじゃん。まさか、お前のスケープゴートにでもするつもりじゃないよね?」

「お前をするならまだしも、静希にんなことするわけないだろ。リスクに関してゼロとは言い切れないが、静希は昨日の事件の通報者だし、津羽音とその時面識があることは事実なんだから、日を跨いで遊びの連絡を入れたって不思議はないだろ。そんな曖昧さで連絡をしたってだけで静希までどうにかしようと思うほど、政府は馬鹿じゃないはずだ」

「……馬鹿じゃないなら、公表前に僕たちが必死の抵抗をする展開にはなってないはずなんだけどね」



 何気ない真の言葉がやけに引っかかった。

 確かにそうだ。

 このことはいつ世間に公表されるんだろうか?


 ふと、その疑問が浮かんだ。

 莉緒が言ったように、万が一にも誤認が許されない問題だ。不安の種は可能な限りではなく、確実に取り除いてから公表したいだろう。


 しかし、その種を取り除くのに時間を掛けてしまうのもよろしくない。

 仮に一ヶ月や二ヶ月時間を掛けてしまえば、事態の究明にそれだけの時間がかかることを公表した事にもなる。処罰の対象になるかもしれない間引きをした者がその罪から逃げるための準備をする期間が作れることを伝えることになってしまう。


 ならば現状の不安の種はなんだ?

 恐らくそれは莉緒の存在だ。あの場に居合わせた重要参考人であり、津羽音の友人。更には余計なことをすると宣言までしている。


 では、その種を取り除く最も確実な方法とはなんだ?

 それは莉緒がいなくなることだ。



 ──あの職員は最後に別れを済ませろと言っていた。



 あの言葉が、津羽音との別れではなく、に向けられたものだとしたら。

 余計なことをするなと言ってきたということは、余計なことをするだけの時間があるということだ。

 それが不安の種を取り除く時間だとするならば、津羽音を助けるタイムリミットは明確な時間が決められているわけではなく……。


 電話が繋がったのだろう。静希が嬉しそうな声を上げた。

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