第十一話 ~そして、運命の指針は定まった~
「ボクのせいで変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「気にしないでいいってば、えっと……」
「
「じゃあ津羽音ちゃん。私は楠原静希。出来れば静希さんより……さっきみたいにお姉ちゃんって呼んでくれると嬉しい、かな」
「わかりました、静希お姉ちゃん」
「はうっ! 可愛い……何か妹ができたみたい!」
「ふひゃ⁉」
──なるほど、静希を駆り立てているのはお姉ちゃんというワードか。
満面の笑みを浮かべながら少女を抱きしめる静希。
腕っ節の強い静希が全力ハグなんてしたら少女が苦しいのではないかとも思ったが、よく見ると少女も少女で満更でもない顔で大人しく静希にされるがままになっている。
莉緒の時は全力拒否だった頭を撫でるという行為も受け入れていたし、傍から見る分には仲のいい本当の姉妹のようだ。
快活で明るい姉と姉の前では素直でしおらしい小悪魔妹!
そんなフィルターを通してみれば、そこにあるのは美しく儚い綺麗な花園。
言うなれば、
……そんなことは百も承知なのだが、とても残念なことに、背景としてこのまま二人を見送るわけにはいかない理由が莉緒にはあった。
物凄い葛藤の末、覚悟を決めた莉緒は嫌々ながらズカズカと百合園へと侵入していく。
「ところでツバネたん」
「気色悪い呼び方はやめてくれ」
「可愛くない? ツバネたん」
「可愛くない、ツバネたん」
「……じゃあどうしろと?」
「そんな悲しそうな顔をしないでくれよ……そうだな、キミがボクを呼ぶときは呼び捨てにしてくれ。変なアダ名は一切なしだ」
「呼び捨ては苗字を? 名前を?」
「苗字、と言いたいところだが、どうせ聞かないだろうから名前でも許容しよう」
「ちなみに俺の名前は──」
「興味ない」
「ひでぇ……」
ガン無視はされないという確認とそんなお許しが出たのだから贅沢は言うまい。
莉緒の表情がスッと真面目なものに切り替わる。
「じゃあ津羽音、俺は明日改めてセンターに呼び出しを喰らってるんだが、どうしてだか心当たりとかはあるか?」
「センターに?」
試生市運営統括管理センター。
リターナーから送られる録画の検証から引っ越しなどの手続きに至るまで、この街で生きる上で必要なことの全てを管理している政府が運営するとんでも市役所のような施設である。
呼び出し自体はそう珍しいことでもないのだが、いかんせん今回の呼び出しのタイミングはそう楽観的にもなっていられない。
莉緒に唯一話しかけてきた政府の人間に言われた要件がこの呼び出しだった。
「……ないね。別にさっきの治安維持活動に巻き込まれたっていう程でもないし、普通なら呼び出しなんて面倒なことにはならないはずだよ」
ふざけた内容ではない莉緒の話に津羽音も少し考えてから返事を返す。
概ね莉緒も津羽音の言葉には同感だった。
だからこそ、今の莉緒は普通じゃない何かに片足を突っ込んだということになってくる。
忘れてはいけないことだが、試生市は実験都市であり、この街で起こることは新しい国の形を決める参考資料として重要視されている。
その根幹とも言えるリターナーが絡んでいる場合は、どんな些細なことでもとてつもなくデリケートな問題になってくる。
それがたとえ、本人達にその意図がなかったとしてもだ。
今回で言えば、事件のあったビルの中での莉緒の行動にはリターナーとして治安維持活動を行っている津羽音を邪魔していると捉えられる場面があった。
実際、邪魔だったかどうかは別にして、最終的には津羽音の行動を制止までさせてしまっている。
そのことに関する注意や警告、最悪何かしらの罰が発生する可能性は否めない。
「ビクビクしながら明日を待たなきゃいけないわけか」
「別に身構える必要はないだろう。呼び出し自体は得体の知れない不気味さが否めないが、キミは被害者でもなければ加害者でもない。偶然現場に居合わせた第三者として振る舞えばいい」
「その第三者ポジションは結構な確率でとばっちりを受けることが多いけどな」
「……なら、その時は呪えばいいじゃないか」
静希の蹴りによってまだ起き上がることができない莉緒はベンチに横になったままで津羽音を見上げる。
いくら考えたところで答えが出ない話だからだろう。真面目な顔はどこぞへ消え、可愛らしい小悪魔はニヤニヤと笑っていた。
静希に抱きかかえられたまま、小悪魔は意地悪そうな顔で言い放つ。
「ボクと出会った運命とやらをね」
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