【毎週金曜更新】AiCONNECTION

第49話『疑問』

　結局、お昼を食べた後も延々と雑談して、何とも言えない微妙な時間を過ごしてしまった。既に夕方、みんなを玄関でお見送り。

　来栖孝美については、後で家の人が迎えに来るからと言って誤魔化した。今はまだ、詳しい事情を話す訳にはいかないし、彼女もなるべく穏便に済ませたいだろうと思う。

　それでも、ＡＩ研のみんなと結構打ち解けた感じになっていたのは良かったと思う。私も雑談中に、なるべくプログラミングの話題とかを出すようにしたし、彼女が話しやすい雰囲気を作るよう意識して会話した。率先して話の流れを誘導しないと、水辺さんや御國さんがどうでもいい話ばかりするだろうし。

　有能な伽羅さんは、どんな話題にも対応可能。下らない雑談からプログラミングの技術的に突っ込んだ話まで何でもいける。まるでウィキペディアみたいに、何を質問してもみんなに分かりやすく解説してくれる超有能。できれば卒業しないで、このまま部員のフォローを続けて欲しいんだけど、さすがにそれは無理な話。

　来年、来栖孝美がウチの学校へ入学する頃には、私たちだけで頑張らなくちゃいけないんだけど、ＯＧとして可能な範囲で協力してもらえることになったのは僥倖（ぎょうこう）。

　ここまで多田さん抜きで話を進めちゃったけど、一応明日、女子会のことも含めて話しておいた方がいいかなぁ？あの人がＡＩ研の部長なのに、まるで仲間はずれにしたみたいになっちゃうし。

　みんなが帰って我が家も静かになった。いつもの日曜日に戻ったみたいだけど、まだ来栖孝美の問題が片付いた訳じゃない。

　来栖家での話し合いはどうなったのかなぁ？私の父親は朝早く出発したけど、途中経過も何も連絡が無いから、状況が好転したかどうかも分からない。

　母親はいそいそと夕食の準備を始めている。今日たくさん買い物をして、食材は豊富にある状況なんだから、それなりの料理を作ってくれることに期待したい。イヤ、無理か。食べられるものなら何でもいい。

「今日は何か、色々あって疲れちゃったね。来栖さん、大丈夫？」

　そう質問してみたけど、彼女は全然嫌そうな顔も疲れた様子も見せない。

「私は大丈夫です。色々と気を遣って頂いてすみません」

　すみませんと言いながらも、彼女は自然な笑顔を見せた。本当に、昨日の出来事が嘘みたい。私を殺そうとしたなんて信じられない。

　彼女がそこまで追い詰められた状況、その原因である父親とは、一日も早く縁を切った方が良いと思う。話が早くまとまるといいんだけど、こればかりは大人の都合が入るから、そう簡単にはいかないかなぁ……。

　いつもなら夕食の時間。でも、私の父親はまだ帰らない。こんなに長い時間、何を話しているんだろう？いくらなんでも時間かかり過ぎじゃないの？

　また昨日みたいに、暴力被害を受けて帰宅したりして……。その可能性は否定できない……。

　仕方ないので、家にいる三人だけで夕食に。お昼に鍋を食べたから、まだそれほどお腹は減っていないんだけど、義務みたいに食事を摂る。

　三人で食卓を囲みながら、何を話せばいいのか分からない。テレビではニュース番組をやっている。またどこかのバカが交通事故を起こしたとか何とか。事故現場からの中継もやっているけど、幸い死者は出なかったそう。

　私が両親の事故死を防いだのは、本当に正しかったのだろうか……？少なくとも私の家庭環境は良くなっているけど、来栖孝美の家庭環境は悪化しているのが明白。私の父親が生存していることで彼女の父親が仕事に影響を受けたなんてのも想定外だし、それが原因で家庭内暴力がエスカレートしたなんてのも想定外。

　ほんのわずか、何か一つでも事象が変われば、その後に続く結果も変わるだろうし、同じ未来に辿り着かないのは分かる。私は未来を変える為に行動している。もうあんな最悪の未来を経験したくはない。

　だからといって、私以外の誰かが不利益を被るのはどうなんだろう？それを考えると、未来を変える為の行動は私のエゴでしかない。今現実に、来栖孝美は父親からの暴力被害を受けて苦しんでいるし、他にも誰かが、私が気付いていないだけで何らかの影響を受けている可能性もある。

　そもそも全ての可能性を検証するなんてのは不可能。何度考えても、その結論は変わらない。それならば、できる範囲でベストを尽くす、ただそれだけの話。でも、そんな一見シンプルに見える結論こそが難しい。

　何を持ってベストとするのか、最適解が分からないのだから。目の前の問題を解決する方法は見当が付いても、そこから無限に分岐する未来は予測困難。所詮、私にできるのは対処療法でしかない。人間の脳内でシミュレーションできる範囲なんて、たかが知れている。本当に、無いよりマシってレベルでしかない。

　ダイアナに分析を頼むにしても、分析する為の情報が不足している。情報収集するにも限界がある。それこそ、神の視点でしか分からない。

　何か、無理ゲー感ハンパないんだけど……。本当に、私は未来を変えられるのだろうか……？そして、その行動は本当に正しいことなのだろうか……？