第47話『日曜日』
どうということのない日曜日。いつもとの違いは、私の家に来栖孝美がいるってこと。朝普通に起きて一緒に朝食を摂ったけど、彼女は遠慮がちに、言葉少なに黙々と、私の母親が作ったあり合わせのテキトー料理を食べていた。
今日も私の父親は来栖家を訪問して、彼女の父親と話し合いをするんだとか。良い結果となるかどうかは神のみぞ知る。どちらにせよ話がこじれて長引きそうな場合、当面彼女には私の家から通学してもらうことになる。
それはそれでまたメンドクサイことになりそうだけど、他に選択肢は無さそう。近隣に頼れる親戚もいないという話なので、今だけ、しばらくの間は私の家に避難し続けてもらう。
彼女も中学三年生で受験を控えている今、急に遠方へ移動させる訳にはいかないだろうし、転校できるタイミングじゃない。
そもそも、クズ親のせいで彼女が負担を強いられるのが筋違い。原因を取り除きさえすれば全てが丸く収まるのだから。
今日は特に出かける用事も無い。自宅で静かに来栖孝美の相手をして過ごすつもりだったけど、母親が買い物に行くから二人も一緒に来いと。メンドクサイけど、我が家の冷蔵庫が食材不足だと言うので付き合わざるを得ない。食事について全部母親に任せるとロクな結果にならないのは分かっているし。
私は毎食カップヌードルでも構わないけど、一応緊急避難者が我が家に来ている状況。テキトーなものばかり食べさせるのは問題だということなのだろう。
車に乗って、自宅から少し離れた大型ショッピングモールへ。真っ直ぐ食料品売り場へ行くのかと思ったら、まず最初に衣料品店へ連れていかれた。昨日コンビニで間に合わせの下着とか買っておいたんだけど、ちゃんと衣料品店で買っておきなさいだとさ。
「来栖さんの下着もそうだけど、アイもそろそろ新しいのを買っておいた方が良いでしょう?私に言われなくちゃ、いつまで経っても古い下着を使い回すんだから」
母親から余計なことを言われてしまった。別にケチってる訳じゃないけど、まだ使えるから買い換えないだけの話。洗濯すれば問題無いし、無駄に出費を重ねなくてもいいじゃないの。
二人でテキトーに下着を選んで購入したけど、次は普段着も買えと言われる。私は今持っている洋服で充分足りているんだけどなぁー。似たような服ばかりでバリエーションに乏しいと指摘されてしまった。失礼な。
私は洋服を選ぶ時、機能性を重視しているだけ。パーソナルカラーは意識していないけど、暗色が落ち着くから同系色で揃えている。無駄にバリエーションだけ増やしても意味が無い。
確固たる理由あってのコーディネートなんだけど、私の言い分は母親に通じないらしい。年頃の女の子らしく、少しはオシャレしろなんて言っている。まぁ、こんなツマラナイことで口論してもしょうがないし、来栖孝美と一緒に女の子らしさを模索しながら服を選んだ。
しかし……、これは一体どういう状況なんだろう……?まるで私と来栖孝美が姉妹のように扱われている。ずっと一人っ子として生活してきて、それが当たり前だと思っていたけど、もしも私に妹がいたら、こんな日曜日もあり得たのかなぁ……?
母親はどういうつもりでこんなことをしているのか分からないけど、二人とも何かそれっぽい洋服を買ってもらう。正直、こんな展開になるとは思わなかった。
「あの……、すみません……。私まで洋服を買って頂いて……。あとで母に代金を出してもらいますから……」
来栖孝美も戸惑っている。他人の家に避難中、下着から洋服まで買ってもらうなんて想定外のことだろうし。
だけど、私の母親は全然気にしていないらしい。
「このぐらいは別にいいのよ。お金のことも心配しなくていいからね。こんな状況で浮かれている場合じゃないでしょうけど、アイに妹ができたみたいでねぇ。少しでもいいから、ウチにいる間は楽しんでほしいのよ」
まぁ、母親なりに気を遣っているってことか。同情すべき事情もあるし、事の発端が父親にあるってのも理由だろうし。何だかおかしなことになっているけど、話の筋は通っている。
ところがここで、更におかしな方向へ。
「あれ?海江さんたちもお買い物に来ていたの?」
どういう偶然だか、水辺さんと御國さんに遭遇してしまう。イヤまぁ、確率的にあり得ない訳じゃないし、週末に偶然買い物先で出くわすってのも不思議は無いんだけどさ。
「あぁ、どうもこんにちは。偶然ですね」
軽く挨拶したけど、今の特殊な状況にツッコミ入れられるのは必然。
「えっと……、海江さんと来栖さん、そしてお母さん~、だよねぇ?」
御國さんもいつも通りのほほんとしてはいるけど、私たち三人の組み合わせを理解できないでいるらしい。
私が母親と買い物しているだけなら何も説明要らないだろうけど、来栖孝美が一緒にいることについて、どう説明するべきか。この二人に彼女の事情を包み隠さず明かすのはまだ早い。
ちょっとまごついたけど、母親が機転を利かせてくれた。
「海江アイの母です。アイと同じ学校の人……なのかしら?いつもウチの子がお世話になっていますね。来栖さんのお父さんとウチの人が同じ勤め先なのよ。来栖さん、今日はウチに遊びに来てくれたから、一緒にお買い物しているの」
説明としては足りてないけど無難な言葉。一応、二人とも納得してくれたみたい。
納得できないのは、水辺さんと御國さんまで家に呼んで、一緒にお昼ご飯にしようなんて展開になったこと。料理が得意な訳でもないのに、どうしてそんな無駄に張り切っているのよ、ウチの母親は……。
食材は必要以上に買ってきたから問題無い。何をどう料理するのかが問題。父親はまだ帰ってこないから、五人分の食事として何を作るのか?母親はその辺ノープランだった。
「それじゃあ、お鍋とかどうかな~?みんなでワイワイ食べるのに丁度良いんじゃないかな~?」
そう御國さんが提案し、特に反対意見は出ないので採用。とりあえず、物入れにしまいっぱなしで埃を被っていた土鍋を母親に洗ってもらい、何鍋を作るのか?家にある材料でできるものをみんなで話し合う。ネットでレシピを探したりもして、ごま豆乳鍋を作ろうということになった。
まぁ、鍋料理なら材料入れて煮るだけだし、失敗することは無いだろうと思う。私の母親でも、問題無く作ることはできる……だろうと。このメンバーで鍋を囲むという謎シチュエーションには納得いかないんだけどさ……。
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