第45話『妥協点』
とりあえず、来栖孝美が抱えている問題が何なのか、現状については理解した。ただ、それを解決する為にどうすればいいのか?という、最適な解をまだ導き出せない。
今更私の父親に死なれたって何も解決しないだろうし、第一に私が困る。両者を立てる方向で話を進めなくちゃいけないと思う。
でも、この件について私は当事者ではなく部外者。親の仕事に口を出しても無駄だろうし、どう考えても介入はできない。
だとしても、意見は言うべき。全くの無関係という訳でもないし、来栖孝美を放っておけない。彼女は私を殺そうとするほどに思い詰めていた。そのターゲットは、私の両親にまで及んでいたのかもしれない。そういう意味では、私だって当事者なんだから。
私の両親も交えて、来栖孝美の家庭について本人からヒアリング。父親の暴力は彼女だけではなく、母親も被害を受けているとのこと。一人っ子で兄弟はいない。今まで相談できる相手もいなかったそう。
聞いているだけでテンション下がる話なんだけど、それが現実。リアルほど残酷なものはない。自分には無縁だと思っていた問題を聞かされて、理解が追いつかない。
私は彼女に同情しているのか?それとも憐んでいるのか?解決すべき問題なのは明らかだけど、この問題にどういうスタンスで向き合っているのかが自分でもよく分からない。
話を聞きながら考えたけど、彼女の両親に離婚してもらうのが一番手っ取り早く安全な選択肢じゃないかと思う。危険は速やかに排除すべき。その為には、彼女の両親とも話をする必要がありそうだけど、どういう段取りを踏むべきか。まぁ、そういうヘヴィーな話は大人に任せるべきかなぁーと。
私が出しゃばってもしょうがないし、まともに話を聞いてもらえるとは思えない。私の両親、主に父親に動いてもらうのが無難かなぁ……?弁護士の鮫島さんにも協力してもらえば、離婚調停ぐらいは問題無く片付けられるはず。家庭内暴力という明確な理由があるんだから。
まぁ、そういうメンドクサイことは大人に任せるとして、私は彼女のフォローに回る程度しかできない。方針は固まった。私の両親も同じ考えみたいで、協力を約束してくれる。
夕暮れ時、とりあえず来栖孝美は私の家に泊まってもらうことにして、私の父親を彼女の家へと派遣する。
一応の方針は決まっているけど、そもそもの原因を作った当事者同士で色々話してもらい、他に解決策がないかも含めて考えてもらおう。
彼女も突然のお泊まり会だし何も準備をしていない。とりあえず二人でコンビニへ行き、替えの下着とか必要最小限のものを調達。
明日は日曜日だからいいけど、私の家から学校に通ってもらうことも想定しなくちゃいけない。私の両親は我が家をDV避難所にしてもいいと言っていたけど、それはそれでメンドクサイことになりそう。
まぁ……、今更途中で投げ出す訳にはいかないんだけどさ。やると決めた以上、最後までやり遂げなくちゃ気が済まない。中途半端なところで放り投げるのはスッキリしないし。片付けるべきタスクがあるなら、しっかり完遂するのが私の性分。
夕食前に、彼女と一緒にお風呂へ入った。体のあちこちに巻いている包帯やガーゼ・湿布なんかを剥がすと、父親からの暴力被害がどれだけ酷いものだったのかを嫌でも理解させられる。
他人と一緒に家風呂なんて初めてのこと。夏合宿で民宿の大風呂に入ったのとは全然違うし、私もこの状況に戸惑うしかない。
二人ともほとんど無言。黙々と体を洗い流して湯船に入った。何か気まずいんだけど、私の方から話をするべきかなぁ……?
「あ、あのさ……、ケガは大丈夫……?お湯が染みたりしない……?」
何かどうしても、腫れ物を触るような話し方になってしまう。
「大丈夫です……。色々気を遣って頂いて、ありがとうございます……」
そう言う彼女は、だいぶ表情が和らいでいた。昼間、私を殺そうとしていた時とは別人みたいに。
体中アザだらけ、擦り傷や火傷の跡もある。初めて会った時には右手にギプスをはめていたから、たぶん骨折していたんだろう。既に治ってはいるみたいだけど、右手の動きが少し不自然に思えるのは骨折の後遺症?
前回の高校生活……、未来の記憶でも、彼女は右手をかばうような動きをしていたと思う。やり直しの今回、色々変化は起こっているんだけど、どちらにせよ彼女は家庭内暴力の被害に遭っていたのかなぁ……?
でも明らかに、今回の方が彼女を取り巻く状況は悪くなっていると思う。本当に……、何をどうするのが正解だっていうのよ……。
お風呂からあがったけど、まだ父親は帰っていなかった。話が長引くのかもしれないし、私たちだけで先にご飯を食べる。
相変わらず私の母親は料理が下手なんだけど、敢えて文句は言わない。無いよりはマシ、そう思って食べている。
たまに気が向いたらネットで料理のレシピを探してやって、母親にリクエストすることもあるんだけど、どういう訳だかレシピ通りに作らず無駄なアレンジを加えるので、期待した結果にはならない。そんなんだから、いまだにカップヌードルチリトマト味こそ至高という考えは変わらない。
来栖孝美は普段どんな食生活なんだろう?ウチの母親が作った料理を普通に食べているんだけど、嫌そうな顔も全く見せない。好き嫌いは無さそう。
父親からの暴力に耐えながら生活していた彼女の家を想像するけど、不穏なイメージしかわかない。
いつ爆発するのか分からない爆弾を側に置いて、平穏な生活なんてできる訳がない。そんなピリピリした生活を、一体どれだけ続けていたんだろう……?
夕食を終えて、リビングでのんびりテレビを視ていたところへ父親が帰宅。何か事態が進展していることを願いたい。
願いたいんだけど……、父親の顔を見て愕然とした。顔には殴られたような腫れが出ているし、シャツのボタンが取れていたりと着衣に乱れもある。まさか、来栖孝美の父親とケンカになったの!?
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