第40話『接点』

 彼女が来栖孝美であることに疑いの余地は無い。ただ、私が未来で関わっていた彼女とは明らかに違う。

 中学三年生時点での彼女を何も知らないから当然のことだけど、この痛々しい姿を見て、どうリアクションするべきか戸惑ってしまった。

「あの……、どうかしましたか?」

 そう聞かれちゃったけど、それはこっちのセリフ。一体何があったのよ……?

「あ……、イヤ……、そのケガ……、大丈夫なの……?」

 彼女の質問に答える前に、そう聞くより他に無い。いくらなんでも意味不明過ぎ。

「あ……、ハイ……。大したことはありませんから……。見た目は凄いかもしれないですけど、もう退院しましたので……」

 退院したからって言われても、客観的に見てドン引きするぐらいの大ケガをしているのは間違い無い。詳しい事情を聞くべき……?判断に迷う……。


 とりあえず、AIに関して彼女の様々な質問に答えてあげた。元々小学生の頃からプログラミングの勉強は始めていたそうで、ある程度の技術的な話も可能。

 彼女としては、やっぱ進学先としてウチの高校を目指しているんだとか。今日は学校の雰囲気を見つつ、AI研がどういう部活なのかを見学に来たそう。来年、彼女がAI研の新入部員となるのは、私が持つ未来の記憶と変わらないと思う。

「今日は色々と教えて頂いて有難うございます。受験までには、この包帯やギプスも取れていると思いますので……」

 彼女はそう言って一礼し、立ち去ろうとした。会話した印象は、未来の記憶と同じ性格、振る舞い、人間性だと思う。

 ただ……、どうしても気になってしまう……。何故彼女は、こんな大ケガをしているのか?未来の記憶で、高校生活の中では、彼女に何のトラブルも無かったし、中学生の時事故に遭ったかどうかなんて話も聞いていない。

「あ……、ちょっと待って。あのさ……、良かったら、連絡先交換しない?ほら、ウチの高校を受験するのなら、私からも色々アドバイスとかできるかもしれないし……」

 少し迷ったけど、彼女との関わりを深めた方が良い気がした。今の時点で接点を作ることで、未来に何か変化が起こる可能性もある。

 私が体験した前回の高校生活で、彼女は二年生の時点で部活を引退している。例のアマテラスがお節介極まる予定表を作ったせいだ。彼女とのチャット内容も覚えている。彼女は進学したいのに、予定表に従って就職することを選んだはず。

 プログラミングスキルは高かったし、適性も充分あったと思う。アマテラスは何故彼女を進学させずに就職させたのか?適性を考慮すれば、プログラミングスキルを伸ばせるような進学先を提案するべきだったんじゃ?

 あの時、私は無関心を決め込んで、彼女からプライベートな話を聞き出そうとしなかった。

 でも、彼女だってプログラミングスキルを伸ばせば、充分有能な人材になるはず。彼女との関係性を深めておいて損は無いし、何より……、こんな姿を見ちゃったら、さすがに放っておけない……。



 文化祭も無難に終了。無駄に色んな人と話をして疲れた。AI研もそれなりに関心持たれているのは分かったけど、入部希望者は現れなかった。

 ただ、来栖孝美と連絡先交換できたのは収穫。彼女はきっと受験をクリアして、AI研に入部してくれると思う。

 問題は、彼女とどう関わるか……?彼女のプライベートな部分に私が踏み込んでいいのか?判断が難しい……。

 前回の高校生活で見た来栖孝美という人物を、私はよく分かっていないと思う。高校入学前については尚更知らない。

 今現在、彼女の情報が全く足りていない。分析できるレベルじゃない。だからといって、軽々しく話を聞き出せるとは思えないし、最適なアプローチが分からない。

 スマホの連絡先一覧に、新しく『来栖孝美』の項目が追加された。通話なりメッセージなり、好きな手段で連絡可能になっている。

 だけど、どうするべきかが分からない……。彼女との関係性を深めようと決めたけど、次の一歩が踏み出せない……。

「ダイアナ……、文化祭のデモンストレーションで会話した人の中から、来栖孝美に関するデータをアーカイブ。新しい情報も随時追加して、人物像の分析を進めておいて」

 とりあえず、文化祭デモ時の会話データ、そして今後彼女とスマホやPCを通してやり取りしていけば、色々と情報収集ができるはず。

 彼女がどういう人物なのか、何か問題を抱えていないか、問題があるなら解決策はあるのか、その辺を探っていかなくちゃいけない。

 明らかに何か問題を抱えているように思える。全ては私の憶測でしかないけど、見過ごしちゃいけない問題に思える。それを聞き出すことができるのか……?今の時点では分からないけど、優先度は高い気がする。

 前回の高校生活で、彼女に対して無関心を貫いたことを後悔した……。もしかしたら、将来的に大きな損失に繋がるのかもしれない。これはたぶん、杞憂じゃない。高校生活をやり直すことになった私のタスク。

 水辺さんや御國さん、伽羅さんや多田さんたちとの付き合い方を変えて、AI研内でのコミュニケーションは円滑になったし、伽羅さんという稀有な存在の国外流出という事態は防ぐことができた。

 これから先、来年以降に私の後輩になる人だって、接し方をよく考える必要がある。何がどう転ぶかは分からない。予測しようにも情報が足りない。

 現時点では不明点が多いけど、少しずつ情報を補完していき、より良い未来へ進まなくちゃ。AIに管理統制された社会で牢屋の中なんて、二度と経験したくない。

 その為には、一歩でも二歩でも前に踏み出さなくちゃ。私は未来を変えると決めたんだから。今更後戻りはできない。

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