第38話『花火』
海水浴を満喫してヘトヘトに疲れた。今回はスイカ割りまでやったし。どうりで荷物が増えていると思った。
知識としては、私もスイカ割りぐらい知っていたけど、まさか実際に自分がやらされるなんて思わなかった。
目隠しした状態でスイカを割るなんて無理ゲー過ぎでしょ。何も見えない状態で、みんなの声を頼りに歩くのが怖くて仕方なかった。まぁちょっと……、面白かったけどさ。
それに、真夏の砂浜で食べたスイカは美味しかったと思う。そもそも私の家ではスイカを食べる機会なんて全然無いし、こんなことするのは初めてだし。
海水浴で消耗した体の水分&糖分補給と考えれば、まぁ……、悪くないと思う。
民宿に戻り、夕飯までは各自のんびり自由に過ごす。まぁ水辺さんも御國さんもPCで何か勉強しているようで、ちゃんとメリハリをつけた時間の使い方はできているみたい。
本当に、前回の高校生活に比べたら雲泥の差。お陰で私も安心して休憩できる。
伽羅さんは勉強させる必要無いレベルで優秀だし、多田さんは根が真面目だから、放置していても自分から勉強してくれる。まぁ、三年生だから受験勉強にもリソース取られちゃうのは仕方ないけど。
夕飯終えて一息ついたら恒例の花火大会。前回の高校生活時とはスケジュールが変わってるけど、やっぱ花火はやるのね。
民宿で借りたバケツと大量の花火を持って海岸へ。明らかに未来の記憶より花火が増えている。今回は水辺さんがふざけないように気を付けなくちゃ。
「さぁ、準備はいいですか〜?花火大会の始まりだよ〜!」
本当に、何故だか水辺さんは無駄にハイテンション。何がこの人をそこまでハイテンションにさせるのか不思議だけど、私に言われなくても自発的にプログラミングの勉強をやってくれるし、メリハリ付けるって意味では、息抜き程度に遊ぶのを許容していいかもしれない。
「ハナちゃ~ん♪こっちも準備オッケーだよ~♪」
さっきから砂浜にしゃがみこんで何かやっていた御國さん。どうやら打ち上げ花火をセッティングしていたみたい。前回の合宿時、打ち上げ花火は一本だけだったけど、今回どういう訳だか花火増量中。
「それじゃあ詩穂、着火マ~ン!ゴーッ!!」
相変わらず水辺さんの語彙は、高校二年生とは思えない。まぁ、意味が通じればそれでいいとは思うけど。
砂浜に立てられた打ち上げ花火は十本。サイズも結構デカいヤツが並んでる。普段トロくさい御國さんが、何故か手際良く導火線に火を点けた。
夜空に次から次へと、花火が打ち上がる。十本全部違うモノだったので、弾ける火花もそれぞれ違う。人気も無く寂れた海水浴場が、即席花火大会の会場になった。
これ、近所の人から騒音の苦情とか入ったりしないのかなぁ……?念の為、この海水浴場の利用ガイドをダイアナに調べさせたけど、禁止事項には入っていないみたい。
「さぁさぁ、花火大会は始まったばかりですよ!ホラ、海江さんもコレ持って!」
水辺さんはそう言って、また花火の束を押しつけてくる。こういうところは変わらないのね。多少の軌道修正はできても、人の本質は変わらないってことか。
みんなで輪になって花火をする。うん、前にやったのと同じ展開になってきた。みんなそれぞれ、手持ちの花火を楽しんでいる。
今回花火が増えたと言っても、市販品の寄せ集めだし大してバリエーションの違いは無い。どれもこれも噴き出す火花には、色の違いや勢いの違い程度の差しかない。
それでもみんな、何だか楽しんでいる。私が変に冷静なツッコミを入れて、場をしらけさせるのは悪手。ここは雰囲気を維持させる方向で。盛り上げるのは難易度高いし。
「海江さん、楽しんでる?花火、キレイだよね!」
水辺さんから笑顔で話しかけられた。ここは同意を求められているのだろう。
「そうですね。私も花火、綺麗だと思います」
そう返事をしたものの、どういう表情をすればいいのやら。作り笑顔は難しい。
前回の合宿……、未来の記憶では、民宿で寝る前に、水辺さんのお父さんが事故死しているなんてヘヴィーな話をされたっけ。
今回はそもそも私の両親が生存しているから、そういう同類憐れみみたいな話を聞いていないんだけど。
私は高校一年生からやり直しているので、それより前の出来事には干渉していない。水辺さんは母子家庭だという程度の話なら聞いている。
水辺さんも御國さんも、花火に夢中らしい。伽羅さんと多田さんも、はしゃぎはしないけど楽しんでいるように見える。緑川先生だって、まるで監督者としての役割を忘れているのか、一緒に花火を楽しんでいる。
何か不思議な光景だ……。私は未来を知っているんだけど、アレコレ介入して違う結果を導き出そうとしている……。
それなのに、こうしてまたAI研のみんなと合宿して花火を楽しんでいるなんて、何だか違和感がある。
今のところ水辺さん達を変化させることに成功してはいるんだけど、人としての本質的な部分は変わっていないように、私の力が及ばない部分もあるのかもしれない。
ちゃんと軌道修正できているのか?今の段階では分からない。そもそも正解が分からない。
私が体験した最悪の未来を回避できるのなら、多少のことは妥協してもいいかなぁ……?どんな結果がベストなんだろう?答えの見えない問題だけに、慎重に取り組まなくちゃいけないと思うけど……。
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