第37話『海水浴』

 結局、合宿初日は普通にプログラミングの勉強会だけやって終わった。水辺さんも御國さんも、どういうつもりなのか分からないけど、全然遊びに行きたいなんて言わなかったし。真面目に勉強してくれるのは良い傾向だけど、何か調子が狂ってしまう。

 私が前回の高校生活とは部員同士のコミュニケーションを変えたから、それぞれの行動や考え方も多少変化して当然だとは思うけど、まさかここまで変化しちゃうとは思わなかった。私がフォローする前に、それぞれ自発的に調べて考えて、分からないことを相談したりもするし。

 素直に喜ぶべきことだと思うけど、前回の高校生活で見た駄目人間っぷりが記憶に残っているから、そのギャップに戸惑ってしまう。



 合宿二日目。この日も朝から真面目モード。みんなそれぞれが設定した目標達成の為に、黙々とプログラミングの勉強。

 そのモチベーションが一体どこから来るのか不思議だったけど、お昼を食べたら海水浴へ行くことになった。

 どうやら水辺さんも御國さんも、勉強と遊びのメリハリをつけたかったらしい。やっぱ海に近い民宿まで来ておきながら、全く遊ばないという考えは無かったそう。何故だか少し、ホッとした。


 この砂浜を歩くのも、前回の高校三年生での夏合宿以来だから久しぶり。未来の記憶に対して久しぶりと思うのも変な話だけど。

 あの時は訳の分からない一年生の面倒を見ながら、どうコミュニケーション取ればいいのか分からず困惑していた。ただメンドクサイだけで得るものは何も無かったと思う。

「海江さん、念願の海だよ!全力で夏を満喫してね!」

 水辺さんは何か勘違いしているみたいだけど、私が海に行きたかった訳じゃない。水辺さんと御國さんが一番海で遊びたかったはず。まぁ、一々ツッコミ入れる必要無いけど。

 相変わらず、この海水浴場は空いている。レジャー目的で来る人が少ない穴場なんだろう。海水浴で混雑とか嫌過ぎるし、まぁ、このぐらいが丁度良いと思う。

 今回は私もちゃんと水着を用意したし、最初からみんなと一緒に海へ直行。灼熱の砂浜から海水へ足を浸けると気持ちがいい。悪くない。もう少し、深いところへ行こう。

 そこへ、水辺さんが頭から豪快にダイブ。激しく水飛沫を周囲へ撒き散らした。

「ウッヒャ〜ッ、気持ち良いねぇ〜♪やっぱり夏はこうでなくちゃ!」

 まぁ、水辺さんはこういう人だから。今更この程度のことで驚かないけど、周りをちゃんと見て行動してもらいたい。

「ハナちゃん、イキナリ飛び込んじゃダメだよ〜?心臓がビックリしちゃうよ〜」

 御國さんも水辺さんの扱いには慣れているんだろう。この二人は幼稚園に通ってた頃からの友達だって言ってたし。

「みんな、あまり沖に出ないように気を付けてね。水泳できる人だからといっても、海難事故は起こるんだからね」

 多田さんは真面目人間らしい発言。まぁ、前回より多少の変化はあっても、合宿中に何も事故は起こらないはず。一応、水辺さんの行動には気を付けた方がいいと思うけど。

「フフフッ……、どうかしら海江さん?ちゃんと夏休みを楽しめているかしら?」

 伽羅さんに声をかけられた。この人は結構際どい水着を身に着けている。緑川先生よりも大人に見えるぐらいに。

「ええ、それなりに。伽羅さんは……、その……、凄い水着ですね」

 ちょっと、何て言うべきか迷ってしまった。伽羅さんは特に会話する機会を増やそうと意識しているんだけど、いつも無難な話題を選んでしまう。

 それでも、海外留学ではなく国内に留まってもらえることになったし、それなりに仲良くなれているとは思う。確信は無いけど。

「フフフッ……、私にとっては高校生活最後の夏だし、思い切ってこの水着を選んでみたの。似合っているかしら?フフフッ……」

 リアクションに困ることを聞かないでもらいたい。まぁ私でも社交辞令ぐらい知ってるけどさ。

「似合ってる……と思いますよ。この合宿参加者では、伽羅さんが一番大人っぽいですし」

 自然と、本音が出てしまった。そもそも私は、嘘をつくのが下手だし。

 前回の高校生活を踏まえて部員とのコミュニケーションを増やしているけど、この人だけはイマイチ腹の内が読めなかったりする。いつも、何を考えているのか分からない。思考回路や脳髄のアーキテクチャが一般人とは違うのかもしれない。

「フフフッ、ありがとう♪海江さんに褒めてもらえると嬉しいわね♪さぁ、みんなと一緒に遊びましょう♪」

 何かよく分かんないけど、喜んでもらえたみたい。伽羅さんがご機嫌になったのは分かる。

 みんなと一緒に水遊び。波打ち際でチャプチャプと。水をかけ合ったり泳いだり。絵に描いたような海水浴なんだけど、私一人だけスク水なのは浮いてるような?まぁ、溺れて沈まなければそれでいいけど。

 わざわざ合宿の為に、新しい水着を買う気にはならなかった。オシャレとかどうでもいいし。

 でも、緑川先生まで無駄にオシャレな水着を用意しているのが何か釈然としない。胸デカ過ぎ。誰にアピールしてるのよ。

 伽羅さんには遠く及ばないけど、水辺さんと御國さんもオシャレな水着だし、多田さんも何故かスク水じゃないレジャー用の海パンを穿いている。

 みんな学校で見慣れた人たちなんだけど、何かが違って見える。部活の合宿とは言っても、学校外での活動だから?イヤ、合宿に参加するのは、未来の記憶を含めればこれで四回目だし。

 私の記憶にある初めての夏合宿より、何か新鮮に感じる。色々と変化しているせいだろうけど、何かが根本的に違う。私が自分で未来を変えようと思って行動しているから当然なんだけど……、この違和感の正体は何……?

 全ては最悪の未来を回避する為。目的は見失っていない。その為にできることは何でもやると覚悟を決めた。私はただ、最善を尽くす。それ以外は考える必要無い。

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